この記事で分かること

  • いま任せている先から替えられなくなっている会社が、どれくらいあるか
  • その原因として、契約や違約金より多く挙がっているもの
  • 技術の判断を外に頼むとき、相手について確かめられること

システムの見積もりが届きました。

金額は、想像していたより大きい。ただ、それが高いのかどうかを確かめられる人が、社内にいません。

もう一社に声をかけます。二社目の金額は違います。項目も並んでいます。ただ、何が違うから金額が違うのかを、こちらで読み取れません。

聞けば説明は返ってきます。その説明が妥当かどうかを確かめる相手が、やはり社内にいません。

見積もりと比べられる公的な数字は、更新が止まっている

IPAは2005年度から、ソフトウェア開発の実績データを集めて公開してきました。「ソフトウェア開発分析データ集」で、2022年版が12回目です。データ件数は累計5,546件(分析データ集2022「はじめに」)

この資料は、自社の数字を外の実績と比べるためのものです。IPAはこう書いています。「分析データ集を外部ベンチマークとして活用することにより、プロジェクト計画立案時の参考にしたり、プロジェクト計画の妥当性を確認することができます(分析データ集2022の案内ページ「活用のメリット」)

ベンチマークとして使える「基本的項目」は「工数、工期、規模、生産性、信頼性等」です(同案内ページ)このうち工数、工期、規模は、見積もりに書かれるものです。

ただし主な統計値は、5,546件の全部ではなく直近6年間、2016年度から2021年度のデータから算出されています(分析データ集2022、1.1.1)そしてこのデータの提供元は、開発を請け負う35社です(同「はじめに」、提供企業一覧は表1-1-2)。受託する側から見た数字なので、発注する側が自社の案件をそのまま比べられるとは限りません。

案内ページには、こう書かれています。「事業終了に伴い『ソフトウェア開発分析データ集』の今後の発行予定はございません」(分析データ集2022の案内ページ「お知らせ」。2025年1月に追加)公開されているのは2022年版と2020年版だけです(分析データ集の案内ページ、公開一覧)

同じIPAの「ソフトウェア動向調査」は続いています。ただ、そちらの設問に、見積もりの妥当性を尋ねるものはありません(2025年度ソフトウェア動向調査、設問一覧)。開発の工数データを分析しているかを聞く項目はありますが、金額と比べられる数値ではありません。

公的な数字と比べるやり方は、ここで行き止まりになります。残るのは、人が読んで判断することです。

任せている先から替えられなくなった会社は、7割を超える

IPAの2025年度ソフトウェア動向調査は、国内企業から362件の回答を集めたものです。単純集計のグラフと、回答そのもののCSVが公開されています(2025年度ソフトウェア動向調査、概要および調査結果)。以下はユーザー企業とユーザー系情報システム子会社の255件で、IPAが単純集計で使っている区分と同じです。開発を請け負う側の回答は外しています。

この255社は、従業員300人以下が60.0%、設立51年以上が63.5%でした(同調査、Q1-6・Q1-7を集計)技術の判断をする人が「やや不足」または「大幅に不足」と答えたのは85.9%です(同調査、Q2-6を集計)

調査は「ベンダーロックイン」の状況を尋ねています。いま任せている先から、別の会社へ替えるのが難しくなっている状態です(同調査、Q6-1を集計)

  • 主要システムの多くにベンダーロックインがある 19.6%(50社)
  • 一部のシステムでベンダーロックインがある 52.9%(135社)
  • ベンダーロックインはない 20.4%(52社)
  • わからない 7.1%(18社)

合わせて72.5%、185社です(同調査、Q6-1を集計)

契約よりも、社内に分かる人がいないことのほうが多い

その185社に、原因を尋ねた設問があります。ここからの割合は、ロックインがあると答えたこの185社を母数にしています。ロックインがない会社に原因を尋ねても、答えが返らないためです。IPAの単純集計はユーザー企業255社を母数にしているので、そちらのグラフとは数字が違います(同調査、単純集計グラフの留意事項)

選択肢の文言と、選んだ社数の割合です。「わからない」「その他」「特になし」は除いています(同調査、Q6-2を185社で集計。複数回答)

  • システム間が密結合しており、全体構成が複雑・肥大化しているため、新規ベンダーが参入しづらい 39.5%(73社)
  • システムに関する知識・ノウハウを持つ社内の有識者がいない 39.5%(73社)
  • 特定のベンダーだけが持つ独自規格や独自技術がシステムに組み込まれている 34.6%(64社)
  • 設計情報や技術仕様が不足している 22.7%(42社)
  • システムや技術の知的財産がベンダーに帰属している 20.5%(38社)
  • 契約上、ソースコードや設計書の共有・利用に制約がある 9.2%(17社)
  • ベンダーと長期契約を結んでおり、移行時に違約金などのコストが発生する 3.8%(7社)

いちばん多いのは二つで、どちらも39.5%です。一つはシステムの作り方、もう一つは社内に分かる人がいないことでした。そして契約と知的財産に関わる三つは、20.5%、9.2%、3.8%です(同調査、Q6-2を185社で集計)。替えられなくなる理由として、契約より人のほうが多く挙がっています。

防ぎ方の項目は、技術と契約だけ

原因として挙がった割合と、防ぎ方の選択肢の数 左は、任せている先を替えられなくなった原因として挙げた会社の割合。ロックインがあると答えた185社を母数とした複数回答で、選択肢の文言は縮めており、三つへのまとめ方は当社の整理である。システムの作り方が三つで、密結合39.5%、独自規格34.6%、設計情報の不足22.7%。契約と知的財産が三つで、帰属20.5%、共有の制約9.2%、違約金3.8%。社内に分かる人がいないが一つで、39.5%。右は、防ぎ方を尋ねた設問に選択肢が何個あるかで、割合ではない。システムの作り方に当たる選択肢は三つ、契約に当たる選択肢は一つあり、人に当たる選択肢はない。 任せている先を替えられなくなった原因 185社が挙げた割合、複数回答 防ぎ方の選択肢 設問にある数。割合ではない システムの作り方 密結合 39.5% / 独自規格 34.6% / 設計情報の不足 22.7% 三つ 契約と知的財産 帰属 20.5% / 共有の制約 9.2% / 違約金 3.8% 一つ 社内に分かる人がいない 39.5% ない 防ぎ方の選択肢が無いのは、人の行だけ

同じ設問群の中に、防ぎ方を尋ねたものがあります。同じ185社での割合です(同調査、Q6-3を185社で集計。複数回答)

  • 仕様や設計情報の可視化を行い、ブラックボックス化を防いでいる 38.9%(72社)
  • オープン標準やデファクトスタンダードな技術・製品を採用している 37.8%(70社)
  • システムの疎結合化やモジュール化を意識して設計・構築している 25.9%(48社)
  • 知的財産権やソースコードの帰属を契約書に明記している 7.6%(14社)

並んでいるのは四つで、システムの作り方が三つ、契約が一つです。原因でいちばん多く挙がった「社内の有識者がいない」に当たる項目は、ここにありません(同調査、Q6-3の選択肢)この調査が尋ねているのは、技術と契約だということです。

その四つのうち一つも挙げなかった会社が、35.7%、66社あります(「わからない」「その他」「特になし」だけを選んだ場合を含みます)(同調査、Q6-3を185社で集計)替えられなくなっていると答えた会社の、3社に1社です。

契約のほうにも、開きが出ています。原因として「知的財産がベンダーに帰属している」を挙げたのは20.5%(38社)ですが、防ぎ方として「帰属を契約書に明記している」を挙げたのは7.6%(14社)でした(同調査、Q6-2・Q6-3を185社で集計)。原因として見えているぶんの半分以下しか、契約で手当てされていません。契約で決められるのは、発注のときに何を書くかまでです。

同じ調査は、内製化について課題も尋ねています。いちばん多く挙がったのは「人材の確保や育成が難しい」で、78.5%でした(同調査、Q4-2をユーザー企業247社で集計。複数回答)人が足りないことは、答える側も挙げています。

ここから先は、当社の見立てです。人の置き方には、採用と育成のほかにもう一つあります。社外の人を、決める場に入れることです。作る側とは別に、判断の側に一人入れる形です。

会社の大きさで変わるのは、誰がつくか

判断の側を外から入れると決めたとき、最初に迷うのは相手の規模です。規模で決まるのは確かさではなく、誰がつくかのほうです。

規模のある先に頼むと、会社としては続きます。担当が替わっても、次の人が来ます。ただ、実際に打ち合わせに出る人が、契約の時点では決まっていないことがあります。

小さい先に頼むと、来る人は決まっています。その人の判断をそのまま受け取れます。ただ、その人が動けないときに、代わりがいません。

どちらが良いという話ではありません。失うものが違うだけです。どちらを受け入れられるかは、任せたい内容によって変わります。

名前を知らない相手でも、確かめられることがある

知られているかどうかは、外から見えるいちばん分かりやすい違いです。ただ、そこから技術の判断の確かさは読み取れません。代わりに確かめられることが、三つあります。

一つ目は、誰が来るのかです。契約する相手ではなく、打ち合わせに出る人の名前と、その人がこれまで何をしてきたか。ここが決まらないまま進むと、任せた先の中で誰が判断しているのかが見えなくなります。

二つ目は、その人のこれまでの判断が、外から読めるかです。書いたもの、話したもの、公開している資料。見るのは正しさではなく、なぜその案にしたか、何を捨てたかが書かれているかどうかです。答えだけが並んでいる相手からは、次に違う場面が来たときにどう考えるかが読めません。

三つ目は、相談の場で、その人が引き受けないことを言うかです。できることの一覧より、こちらのほうが早く分かります。何を断るかが決まっている人は、自分の判断の範囲を自分で把握しています。

この三つは、相手の規模とも、名前が知られているかどうかとも関係がありません。二つ目は、頼むと決める前に読めます。一つ目と三つ目は、最初の打ち合わせで分かります。

当社にも、そのまま当たります。打ち合わせに出るのは代表です。これまで何をどう決めてきたかは、記事とXのプロフィールに出しています。

別の相手に頼むほうが早い場合

次の二つは、当社に頼むより早い相手がいます。

  • 夜間や休日を交代で見る体制が要る場合。常時の監視や一次対応は、その体制を持つ先に任せるほうが確かです
  • 複数の拠点に人を常に置く必要がある場合。置く人数で決まるので、規模のある先に向きます

どちらも、人数と拠点で決まります。判断できる人がいないことと、動かす手が足りないことは別の問題です。分けて頼むほうが、それぞれ早く進みます。

明日からできること

いま任せている先を一つ思い出して、別の会社に替えられるかを考えます。替えにくいと感じたなら、その理由を三つに分けます。システムの作り方か、契約か、社内に分かる人がいないことか。三つ目に当たるなら、手を入れる先は技術や契約ではありません。

頼む先の候補が挙がったら、その人が書いたものを一つ読みます。答えだけでなく、なぜその案にしたか、何を捨てたかが書いてあるか。ここは、頼むと決める前に確かめられます。

そして最初の打ち合わせで、二つ聞きます。誰が来るのか。引き受けないことは何か。引き受けない範囲が分かれば、任せる範囲は、こちらで決められます。