この記事で分かること
- 取適法(旧・下請法)の勧告39件で、いちばん多かった違反は何だったか
- 発注のときと、内容を変えたときに、法律が何を求めているか
- 契約書のひな形を整えても、埋まらないものは何か
システムの開発を、外部の会社に委託しています。進めていく途中で、やることが増えます。画面をもう一つ、項目をもう一つ。
担当者が、その開発会社に伝えます。「これも入れておいてください」。相手が答えます。「大丈夫です、やっておきます」。
金額の話は出ませんでした。相手が引き受けたので、話は終わったように見えます。
ただ、この頼み方が、法律の禁じている行為に当たることがあります。
取適法は、下請法が改正されて令和8年1月に施行された法律です(第2 1(1))。禁じられている行為の一つに、「不当な経済上の利益の提供要請」があります。委託事業者が、中小受託事業者に「金銭、役務その他の経済上の利益を提供させる」ことです(第5条第2項第2号)。
この「委託事業者」と「中小受託事業者」は、資本金の規模または従業員数と、取引の内容で決まる呼び方です(取適法の概要)。禁じられているのは、発注する側の行いです。
金銭だけではありません。役務、つまり作業そのものが入ります。
相手が引き受けたことは、免れる理由になりません。公正取引委員会は、委託事業者の禁止行為を説明するページの冒頭に、こう書いています。
「たとえ中小受託事業者の了解を得ていても、また、委託事業者に違法性の意識がなくても、これらの規定に触れるときには、取適法に違反することになるので十分注意が必要です」(委託事業者の禁止行為)。
知らなかったことも、同じです。この二つが理由にならない以上、発注する側が、自分で分かっている必要があります。
いちばん多かったのは、値段の話ではなかった
公正取引委員会は、令和7年度の運用状況を2026年6月10日に公表しました。勧告は39件です(第1 1(1))。
勧告の対象になった違反行為の類型は、こう並んでいます(第1 1(1))。
- 不当な経済上の利益の提供要請 31件
- 製造委託等代金の減額 6件
- 返品 6件
- 不当な給付内容の変更等 1件
- 買いたたき 1件
合計は39を超えます。一つの勧告に、複数の類型が含まれるためです(第1 1(1))。
いちばん多いのは「不当な経済上の利益の提供要請」で、31件です(第1 1(1))。作業を無償で引き受けさせることが当たりうるのは、この類型です。
一方、値段を不当に低く決める「買いたたき」は1件でした(第1 1(1))。
指導は8,261件、原状回復は委託事業者177名から中小受託事業者5,165名に対して総額25億5698万円相当です(第1 1(2)、第1 2)。
ここまでの数字は、令和7年度の集計です。施行が年度の途中なので、その前の期間を多く含みます。
ただし、規制が緩くなったわけではありません。令和8年1月1日以降に発注される取引では、手形払いが一律に禁止されました。支払期日を超える満期を設定した一括決済方式や電子記録債権による支払も、原則として禁止される支払遅延に当たります(第2 3(3))。
四つの義務のうち、二つは書くこと
委託事業者には四つの義務があります。そのうち二つが、書くことについてのものです。
一つ目は、発注内容等の明示義務です。発注に際して、11項目すべてを記載した書面または電磁的記録を、直ちに交付する義務があります(第4条)。
11項目には、こういうものが並びます(第4条)。
- 中小受託事業者の給付の内容
- 給付を受領する期日と、受領する場所
- 検査をする場合は、その検査を完了する期日
- 代金の額と、その支払期日
残りは、当事者の名称、委託をした日、支払方法の細目、原材料等を有償支給する場合の条件です(第4条)。
二つ目は、書類の作成・保存義務です。17項目を記録し、2年間保存します(第7条)。こちらには、あとから変えたことが入ります(第7条)。
- 受領した給付の内容と、受領した日
- 検査をした場合は、完了した日と結果、合格しなかったものの取扱い
- 給付の内容について、変更またはやり直しをさせた場合は、その内容及びその理由
- 代金の額に変更があった場合は、増減額及びその理由
法律が2年間残せと言っているのは、仕様を変えた記録です。項目の全体は公正取引委員会のページにあります。
さらに、価格の協議を求められたときには説明が要ります。「中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど一方的に製造委託等代金を決定すること」が禁止されています(第5条第2項第4号)。この説明が要るのは、価格の協議を求められた場面です。
条文を読んでも、何を書けばいいかは決まらない
ここまでは、条文に書いてあることです。発注時に給付の内容を書き、変えたら理由を残し、協議を求められたら説明する。
難しいのは、そこから先です。「給付の内容」に何を書けば、あとから追加かどうかを決められるのか。その答えは、作るものによって違います。
画面の数を書いても、その画面がどこまで動けば完成なのかは決まりません。機能の名前を書いても、既存のデータをどう扱うかは決まりません。どこまで書けば足りるかは、何を作っているかを知らないと決められません。
契約書のひな形には、給付の内容を書く欄を作れます。欄は作れますが、中身は法務では書けません。ここが、契約を整えても埋まらないところです。
当社は、発注する側のご相談も、受託する側の仕事も受けています。これまで見てきた範囲では、先に決めておいて効くのは、どちらの側でも同じ一点でした。増えた分が追加かどうかを、あとから示せるようにしておくことです。
詳しくなりようがないのは、置かれ方の問題
発注する側の理解が浅くなるのは、担当者の力量の話ではありません。
発注は、年に数回しか起きません。前回から間が空き、担当も変わります。毎回ほとんどゼロから考えることになります。
回数が増やせないなら、代わりに、回数を積んだ人に入ってもらうことになります。何を書いておけば、あとで追加かどうかを示せるか。それは、発注を何度も見てきた人のところに溜まります。社内にいなければ、外から入ってもらう形でも構いません。
明日からできること
いちばん最近の発注書を1件開いて、「給付の内容」に当たる欄に何が書いてあるかを読みます。
そのうえで、その案件で途中から増えたことを一つ思い出し、その欄の記述だけで、追加かどうかを示せるかを見ます。示せないなら、次の発注書で足す言葉が分かります。
自社の取引が対象になるかどうかの区分は、公正取引委員会のページに載っています。
対象でなければ、書面の交付も記録の保存も、法律上の義務にはなりません。それでも、増えた分が追加かどうかを示せるかは、発注時に書いてあるかで決まります。費用と期日を決め直せるかどうかも、そこで決まります。