この記事で分かること

  • 一つの会社が、いくつの開発手法を並行させているか
  • 調査が「アジャイル」を二つの選択肢にしている理由
  • 手法の名前を決める前に、決めておくこと

委託先から「アジャイルで進めます」と言われました。

社内から「カンバンにしよう」と出ることもあります。どちらも、名前は分かります。

ただ、それで自社の何が変わるのかは、名前からは出てきません。

開発手法は、一社に一つではない

この記事の数字は、すべて2026年2月9日時点のものです。IPAの2025年度ソフトウェア動向調査で、国内企業から362件の回答を集めたものです。回答そのものがCSVで公開されているので、一件ずつ横に見て数えられます(2025年度ソフトウェア動向調査、概要および調査結果)。以下はユーザー企業とユーザー系情報システム子会社の255件で、IPAが単純集計で使っている区分と同じです。開発を請け負う側の回答は、分けて数えています。

この調査は、六つの開発手法について、それぞれの導入状況を尋ねています(同調査、Q11-1の選択肢)

  • ウォーターフォール
  • アジャイル(スクラム等の厳密なルールがある)
  • アジャイル(厳密なルールがない)
  • DevOps(DevSecOps)
  • ノーコード/ローコード
  • モデルベース開発

六つのうち一つ以上を導入済みと答えたのは、164社でした。64.3%です(同調査、Q11-1を255社で集計)

その164社の中を見ます。一つだけが52社、二つ以上が112社です。68.3%が二つ以上を並行させています(同調査、Q11-1を164社で集計)。1社あたりの平均は1.7個でした。

開発を請け負う側では、もっと多くなります。107社のうち96社が一つ以上、そのうち89社が二つ以上です。92.7%で、平均3.5個です(同調査、Q11-1をベンダー企業107社で集計)

つまり「どの手法か」は、一つに決まる問いになっていません。委託先が「アジャイルで進めます」と言っても、その会社ではウォーターフォールもノーコードも動いています。

「アジャイル」という一語も、二つに分かれている

手法の数と、アジャイルの中身 ユーザー企業で開発手法を一つ以上導入している164社のうち、一つだけが52社、二つ以上が112社で68.3%を占める。またアジャイルを導入している100社のうち、厳密なルールがあるアジャイルを含むのが47社、ルールのないアジャイルだけが53社である。棒の長さは各行の中での割合を表す。 開発手法を入れている会社の中を見る(ユーザー企業) 入れている手法の数 164社 一つだけ 52社 二つ以上 112社(68.3%) アジャイルの中身 100社 厳密なルールがあるアジャイルを含む 47社 ルールのないアジャイルだけ 53社 名前を一つ選んでも、中身は決まらない

選択肢に「アジャイル」が二つあります。調査自体が、厳密なルールがあるものとないものを分けて聞いています(同調査、Q11-1の選択肢)

ユーザー企業でアジャイルを導入済みと答えたのは、どちらかを含めて100社でした。内訳です(同調査、Q11-1を255社で集計)

  • 両方 38社
  • 厳密なルールがあるアジャイルだけ 9社
  • ルールのないアジャイルだけ 53社

アジャイルを入れている会社の半数以上が、ルールのないアジャイルだけです。開発を請け負う側では86社のうち20社で、そちらは両方が53社でした(同調査、Q11-1をベンダー企業107社で集計)

決めごとを増やすかも、直したいことで決まる

この二つのグループに、開発のガイドラインを整備しているかを重ねます(同調査、Q11-2の「ソフトウェア開発(設計・実装・テスト等)」を集計)

  • ルールのないアジャイルだけの53社 ── 整備している30社、整備していない16社
  • 厳密なルールがあるアジャイルを入れている47社 ── 整備している38社、整備していない4社

母数が小さいので、ここは傾向までです。16社と4社の比較で、どちらも数十社の中の話です。

そのうえで、厳密なルールがあるアジャイルを回すには、決めごとを書いて配ることになります。誰がいつ何を見るか、どこで区切るか。続けるうちに、開発のガイドラインも要るようになる。そうやって揃っていくのだと読めます。

直したいことが決まっていれば、この違いは選べます。変更に追いつきたいなら、決めごとを増やす。小さく早く出したいなら、増やしすぎると遅くなる。厳密な形が自社には過剰だと気づけるのも、直したいことが決まっているからです。

困りごとを言えれば、手法は決められる

手法の名前は、外から見て分かります。決めたことも伝えやすい。だから話に出やすくなります。

ただ、名前だけでは何も決まりません。リリースが遅い、変更に追いつけない、品質が安定しない。これは別の困りごとで、要る決めごとも違います。

そして何が良くなったかを数えられるのは、直したいことが決まっている場合だけです。「アジャイルにしたので早くなりました」だけでは、何が早くなったのかが分かりません。

明日からできること

いま話に出ている手法の名前を、一度外します。そして直したいことを一つ書きます。リリースが遅い、変更に追いつけない、品質が安定しない、委託先の中が見えない。一つに絞ります。

書けたら、それが良くなったと分かる形を決めます。何を数えるのか、いつ見るのか。ここまで決まっていれば、手法は選べます。

委託先に聞くことも変わります。「どの手法で進めますか」ではなく、「それで何が変わりますか」です。返ってきた答えが、こちらの書いた一つと合っているかを見ます。