この記事で分かること

  • 社内のシステムを、全部同じ扱いにしていないか
  • 自社で作るものと、既存のサービスで足りるものの分け方
  • 分けたあと、どこに人を置くか

社内のシステムは、自社で作るべきか。この問いを、社内のシステム全体について一度に決めようとしているなら、先に見直すのは、その決め方のほうです。基幹の仕組みも、勤怠も、問い合わせの窓口も、同じ扱いになるからです。

一つのシステムについて聞いているなら、答えは出せます。分かれ目は、そのシステムに自社固有の要件があるかどうかです。

では、この見分けはどれくらいできているのか。公開されている調査に、手がかりがあります。

目標にいちばん近いのは、守りだった

IPAのDX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2025年版)は、2025年の1年間に企業が自ら提出した自己診断のうち、分析の対象になった1,164件をまとめたものです。公開は2026年5月15日。35の項目それぞれについて、いまの成熟度と3年後の目標を、レベル0からレベル5の6段階で答えます。この記事に出てくる数字は、そのレベルを表しています。

全体では、現在値1.98に対して目標値3.51でした(表3-2)35項目の平均が4以上だった企業は、全体の3%です(表3-1)

ITシステムに関する項目の中で、目標との差がいちばん小さかったのは「プライバシー、データセキュリティ」で1.35でした。現在値2.43も、ITの項目では最も高い値です(表3-6、p.18)

守りは、目標にいちばん近いところまで来ています。

なお、この記事で挙げる項目名は、改訂前のものです。DX推進指標は2026年2月に改訂され、現行の自己診断フォーマットでは、ITシステムに関する設問は「3-3.ITシステム・サイバーセキュリティ」の設問23〜29にまとまっています(自己診断フォーマット2026改訂、2026年2月18日版)。2025年の自己診断は、改訂前の形で行われたものです。

いちばん遠いのは、投資の効果を確かめることだった

反対の端にあるのが「IT投資の評価」です。現在値1.74、目標値3.42で、差は1.68。ITの項目では最も大きな差でした(表3-5)。現在値そのものも、ITの項目で最も低い値です(p.18)

報告書はこう書いています。「これはIT投資とビジネス価値が連動しているかを評価する指標であるが、その背景には、経営視点指標である『評価』や『投資意思決定・予算配分』の仕組みの未整備と、『IT投資の評価』の難しさが相互に関連している可能性がある」(p.22)

投じた費用が効果を生んだかどうかを、確かめられていません。次にどこへ投じるかは決まりますが、前回の結果は、その根拠になりません。

投資の判断が難しいのは、自社に限りません。では、どこから手をつけるか。効果は測りにくくても、かかっている費用は数えられます。自社で作り込んだところは、更新への対応も、不具合への備えも、自社で持ち続けます。そこが、いちばん見えやすい入口です。

問いは、一つでいい

手を入れ続けるかどうかの分かれ目 そのシステムに自社固有の要件があるかを最初に問い、あるなら自社で作って手を入れ続け、無いなら業務のほうをサービスの作りに合わせて既存のサービスに寄せる。全部を自社で作るか全部を既存のサービスで揃えるかという二択の手前に、この問いがある。 このシステムに、自社固有の要件があるか 既存のサービスに、業務のほうを合わせられるか 固有の要件がある 合わせられる 自社で作って、手を入れ続ける 人を置き、社内に知識をためる 既存のサービスに寄せる 業務のほうを、サービスの作りに合わせる

自社で作るか、既存のサービスを使うか。この二択で議論が始まることがあります。

全部を自社で作れば、守るものが増え続けます。更新も、不具合への備えも、すべて自社で持ちます。

全部を既存のサービスで揃えれば、業務のやり方を道具のほうに合わせることになります。合わせること自体はできます。ただ、そのやり方が事業に結びついていた部分では、変わるのは事業のほうです。

答えは、システムによって違います。一つずつ、上図の問いに答えていきます。当てる問いは、それだけです。

何から切り分けるか

いまあるシステムに、先ほどの問いを当てていきます。

その前に、もう使っていないものを外します。止めた事業のために作ったもの、使う人がいなくなったもの。動いているだけで、守る手間と費用はかかり続けます。使うのをやめます。

一つ目。自社のやり方でなければ回らないもの。受発注のやり方、問い合わせへの応対、在庫の持ち方。やり方を変えると、事業のほうが変わってしまう部分です。ここは自社で作り、手を入れ続けます。

二つ目。他社と同じやり方で回るもの。勤怠、会計、経費、社内の連絡。自社に合わせて作り込んでいるなら、なぜそうしたのかを確かめる価値があります。当時は、それが最短だったはずです。同じことができるサービスが無かった、取引先の都合が違った。変わったのは、その前提のほうです。いま標準の機能で足りるなら、業務のほうを合わせて、既存のサービスに寄せられます。

答えが出そろうと、手を入れ続けるものが絞られます。費用と人をかけ続けるのは、一つ目だけです。この分け方は、人の置き場にもそのまま使えます。採用も、育成も、委託先との付き合い方も、一つ目を起点に決められます。

構えずに始められる

全部を一度に分ける必要はありません。いま手を入れる予定のあるものから始められます。

分類を制度にする必要もありません。表を作って運用に載せると、更新されないまま古くなります。判断が要るときに、その都度当てるほうが続きます。

自己診断の点数を上げようとする必要もありません。ガイダンスにも「成熟度レベルの把握や特定の成熟度レベルへの到達そのものが目的化しないよう留意する必要がある」と書かれています。

そして自己診断そのものは、9月・10月が集中実施期間です。結果を10月31日までにIPAへ提出すると、他社と比べたベンチマークの速報版が11月中頃に届きます。提出の手順は、IPAのDX推進指標のご案内にあります。