この記事で分かること
- 生成AIに個人情報を入力するとき、確認するよう書かれている二つのこと
- 外部の事業者を使うとき、提供に当たるかどうかを分けている基準は何か
- 令和8年の法改正が、この場面を変えたかどうか
社員が業務で生成AIを使っています。文章を書く時間と、資料を読む時間が短くなるので、誰かが試したところから、そのまま定着しています。
そこに、顧客の名簿や社員の評価を貼り付けてよいのか。国の委員会が、確認することを挙げています。
確認することは、二つ書かれている
個人情報保護委員会が令和5年6月2日に出した「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」です(個人情報保護委員会、生成AIサービスの利用に関する注意喚起等)。3年前のものですが、いまも注意情報の一覧に載っていて、これを差し替える生成AI向けの注意喚起は出ていません(同委員会、注意情報一覧、2026年8月時点)。
対象が三つに分かれています。個人情報取扱事業者、行政機関等、一般の利用者。項目数は順に2・2・3で、合わせて七つです(生成AI注意喚起)。会社として使うなら、当たるのは一つ目です。
一つ目。「特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」(生成AI注意喚起、(1)①)。
二つ目。あらかじめ本人の同意を得ずに入力して、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は、法の規定に違反することとなる可能性があると書かれています。続きはこうです。「そのため、このようなプロンプトの入力を行う場合には、当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」(同注意喚起、(1)②)。
入力する側が確かめるのは、入力するデータのことではありません。原典が言う「当該生成AIサービスを提供する事業者」、つまりAIの提供元が何をするかです。
一般の利用者への留意点には、なぜそうなるかも書かれています。「生成AIサービスでは、入力された個人情報が、生成AIの機械学習に利用されることがあり、他の情報と統計的に結びついた上で、また、正確又は不正確な内容で、生成AIサービスから出力されるリスクがある」(同注意喚起、(3)①)。入力したものが、出力の側に現れることがあります。ほかの情報と結び付いた形や、内容が違う形で出てくることも含めて、そう書かれています。
判断を分けているのは、保存の有無ではない
では、AIの提供元が何をするかをどう確かめるのか。同じ委員会のガイドラインQ&Aに、外部の事業者を使うときの考え方があります。クラウドサービスについて書かれたものです(同委員会、ガイドラインQ&A、Q7-53)。
「クラウドサービスの利用が、本人の同意が必要な第三者提供(法第27条第1項)又は委託(法第27条第5項第1号)に該当するかどうかは、保存している電子データに個人データが含まれているかどうかではなく、クラウドサービスを提供する事業者において個人データを取り扱うこととなっているのかどうかが判断の基準となります」(ガイドラインQ&A、Q7-53)。
取り扱わないことになっている場合は、提供したことにならないので、本人の同意は要りません(同Q&A)。
取り扱わないと言える形は、二つ挙がっている
その「取り扱わないこととなっている場合」が、続きに書かれています。「契約条項によって当該外部事業者がサーバに保存された個人データを取り扱わない旨が定められており、適切にアクセス制御を行っている場合等が考えられます」(ガイドラインQ&A、Q7-53)。
契約条項と、アクセス制御。二つとも要ります。
ただし文末が「等」です。この二つを満たせば必ず当たらない、とは書かれていません。挙げられているのは例のほうです(同Q&A)。
実際に該当と判断された形が、三つ出ている
同じ委員会が令和6年3月25日に、クラウドサービスの提供事業者が個人情報取扱事業者に該当すると判断された事例について、注意喚起を出しています(同委員会、令和6年3月25日の注意喚起)。考慮要素が三つ挙がっています(クラウド注意喚起、1)。
一つ目は、利用規約に、提供事業者が保守や運用上必要と判断した場合はデータの監視や分析ができると書かれていたこと。二つ目は、「保守用IDを保有し、クラウドサービス利用者の個人データにアクセス可能な状態であり、取扱いを防止するための技術的なアクセス制御等の措置が講じられていなかった」こと。三つ目は、確認書を取り交わした上で、実際に利用者の個人データを取り扱っていたこと(クラウド注意喚起)。
一つ目は規約に何が書かれているか、二つ目は技術的に入れる状態かどうかです。別のことを見ています。
そして二つ目が、上のアクセス制御に当たります。契約条項に書いてあっても、提供元がアクセスできる状態のままなら、そこは埋まっていません。
監督の義務が外れても、安全管理は残る
提供に当たらないと整理できた場合、AIの提供元を委託先として監督する義務は課されません。ただし、そこで終わりではありません。
「クラウドサービスの利用が、法第27条の「提供」に該当しない場合、法第25条に基づく委託先の監督義務は課されませんが、クラウドサービスを利用する事業者は、自ら果たすべき安全管理措置の一環として、適切な安全管理措置を講じる必要があります」(ガイドラインQ&A、Q7-54)。
義務がなくなるのではなく、置き場所が提供元の監督から自社の安全管理に移ります。誰がどのアカウントで使うか、どの情報を入力するかは、自社の側で決めることになります。
令和8年の改正は、この場面を変えていない
個人情報保護法は、令和8年7月17日に改正法が公布されました(同委員会、令和8年改正個人情報保護法について)。施行は「原則として公布の日から起算して2年を超えない範囲内」で、政令で定める日です(令和8年改正法の概要)。
AIに関わる改正は入っています。ただし対象が違います。個人データ等の第三者提供と、公開されている要配慮個人情報の取得について、統計情報等の作成にのみ利用される場合は本人同意を不要とするもので、原典はその統計情報等の作成に「統計作成等であると整理できるAI開発等を含む」と注記しています(同概要、第30条の2、第31条の3)。
AIを開発する側のデータの集め方についての改正です。業務で生成AIにプロンプトを入力するときに何を確かめるか、というこの記事の話は、この改正では変わっていません。
明日からできること
確かめるのは、二つです。
ひとつは、いま社内で使われている生成AIサービスの名前を並べることです。会社が契約したものだけではありません。個人が無料で使っているものも入ります。文章の下書き、翻訳、議事録の要約、表計算の関数を書かせるもの。用途ごとに別のサービスが入っていることもあります。
もうひとつは、その一つずつについて、入力したものを学習に使わないと書いてあるかを見ることです。見る場所は、利用規約とプライバシーポリシーです。注意喚起も、一般の利用者への留意点として「利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確認し」と書いています(生成AI注意喚起、(3)③)。
学習に使うかどうかを、設定で切り替えられるものもあります。その場合は、いまどちらになっているかを見ます。契約の種類によって、この設定が変わることもあります。
順番があります。利用の規程は、あったほうがよいものです。ただ、先に来るのは上の二つです。それが済んでから、どこまで入れてよいかを書けます。
そして、見た結果で分かれます。学習に使われると書いてあるサービスに個人データを入れているなら、そこは止めます。注意喚起は、機械学習に利用しないことを十分に確認することを求めています(生成AI注意喚起、(1)②)。確認できないまま入れている状態は、そこを満たしていません。
学習に使わないと書いてあるなら、入れられる範囲があります。その範囲を、利用目的から決めます。