この記事で分かること
- 業務で生成AIを使う会社が確かめることは、原典にいくつ挙がっているか
- 著作権侵害が成り立つ条件のうち、生成AIを使うと何が変わるか
- AIに作らせたものを社外に出す前に、何を確かめるか
社員が生成AIに文章や図を作らせます。提案書に貼る。製品の画面に載せる。誰かの作品に似せるつもりはありません。
似せるつもりがなくても、社外に出す前に確かめることがあります。
著作権のリスクを下げる項目が、立場ごとに31ある
その確かめ方が書かれているのは、文化庁が令和6年7月31日に公開した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」です(文化庁、AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス)。「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)の解説資料です(文化庁、AIと著作権についてのページ)。
この資料の第1部は、生成AIとの関わり方で立場を四つに分けています。AI開発者、AI提供者、AI利用者(業務利用者)、業務外利用者(一般利用者)です(同ガイダンス、このチェックリストについて)。立場ごとに、原典が「リスク低減方策」と呼ぶ項目が番号付きで載っていて、順に11・5・8・7で合計31あります。
事業活動で生成AIを使う会社が当たるのは、AI利用者の8項目です。
ただし、一つの立場に収まらない場合を原典が断っています。「一の事業者(又は個人)であっても、生成AIに対する関わり方により、同時に複数の分類に該当する場合があります」(同ガイダンス、このチェックリストについて)。自社で追加学習をさせているなら、AI開発者の11項目も自社の話になります。
効いてくるのは、元の作品が学習データに入っていたか
AI利用者の1番目の項目が、確認しておく情報を四つ挙げています。その一つ目の生成AIの仕組みと特性に、こう書かれています(同ガイダンス、3-1-1)。
「生成AIを利用する場合、仕組み上、学習データに含まれる既存の著作物と類似した生成物が生成されることがあり、また、生成AIを利用しない場合と異なりAI利用者が既存の著作物を認識していなくても、生成・利用が著作権侵害となることがあります」(同ガイダンス、3-1-1)。
元の作品を知らなかったことは、それだけでは免れる理由になりません。社員に悪意があったかどうかも、この判断には入っていません。
なぜ免れないのかは、著作権侵害が成り立つ条件にあります。その条件は、権利者に向けて書かれた第2部が二つに分けています。原典はこの二つを「類似性」と「依拠性」と呼び、それぞれ既存の著作物の本質的な特徴を直接感得できること、既存の著作物に接してこれを自らの作品の中に用いることと書いています(同ガイダンス、著作権侵害の要件)。そして原典は、判断の仕方が作り手によって変わらないと書いています。あるコンテンツの作成や利用が侵害になるかは、「そのコンテンツを人が作成したか、AIにより生成されたかにかかわらず」、この二つがあるかどうかで決まります(同ガイダンス、著作権侵害の要件)。
生成AIで変わるのは、二つ目の依拠性です。人が自分で書くとき、元の作品に接していなければ依拠性は出てきません。生成AIを使うときは、社員が接していなくても、そのAIが学習したデータに元の作品が入っていることがあります。
原典もそこを見ています。AI開発者に向けた項目に、AI利用者が、その著作物がAIの学習データに含まれていないことを示すことができれば、「依拠性が認められる可能性を低減させる要素となる」と書かれています(同ガイダンス、1-3-1)。
そこで原典は、社員が元の作品を知っていたと見られる場合を挙げています。「生成AIへの指示(プロンプト)として既存の著作物そのものを入力した場合や、既存の著作物の題号(タイトル)、キャラクター名などの特定の固有名詞を入力した場合は、AI利用者が既存の著作物を認識していたことを推認させる間接事実となり、依拠性が認められやすくなると考えられます」(同ガイダンス、3-1-7)。
公開や納品に回すと、作らせたものの判断が変わる
AI利用者の4番目の項目が、作るところと、公開や納品に回すところを分けています。見出しは「生成物の生成と利用では著作権侵害の判断が異なり得ることに留意」です(同ガイダンス、3-1-4)。
作るほうについて、原典は二つの場合を挙げています。個人が私的使用の目的で生成する場合(著作権法第30条第1項)と、企業や団体の内部で、許諾を得て利用することを前提に検討の過程で生成する場合(同法第30条の3)です。原典はこの二つの場合について「これらの権利制限規定の範囲内であれば、権利者の許諾なく適法に行うことができます」と書いています(同ガイダンス、3-1-4)。
続けて、公開や納品に回すほうが書かれています。「これに対して、AI生成物の利用(インターネットでの配信、複製物の譲渡等)については、権利制限規定の範囲外となる場合が多いと考えられます」(同ガイダンス、3-1-4)。
社内で試して見比べるところまでと、提案書や製品に載せて公開したり納品したりするところは、別に見ます。試すのに問題がなかったことは、公開してよい理由になりません。
先に見るのは、出てきたものが似ているかどうか
では社外に出す前に何を見るのか。AI利用者の5番目の項目が、何を先に見るかを書いています。原典は、類似性と依拠性の双方が必要なので、既存の著作物との関係で類似性がない生成物については著作権法上の許諾は要らないとしています(同ガイダンス、3-1-5)。
そして確かめ方まで書かれています。原典は、利用に先立ってまず既存の著作物と類似していないかを確認することが必要だとして、注で「インターネット検索(文章検索・画像検索)の活用など」を挙げています(同ガイダンス、3-1-5)。
誰の作品を参照したかを社員に聞くより前に、出てきたものを検索にかけます。
もう一つ、7番目の項目が残すものを挙げています。「依拠性がないことを説明できるよう、生成に用いたプロンプト等、生成物の生成過程を確認可能な状態にしておくよう努めることが望まれます」(同ガイダンス、3-1-7)。
作らせたものが侵害になるかと、自社のものになるかは別
原典は、この二つを混同することを名指しで挙げています。AI利用者の1番目の項目の四つ目に出てきます。原典が挙げている誤解の例は、「既存の著作物の著作権侵害が生じるかという問題と、AI生成物の著作物性の有無の問題とを混同する等」です(同ガイダンス、3-1-1)。
著作物性のほうについて、原典が判断の材料を書いています。AI生成物が著作物に該当するかは、生成に当たってAI利用者が有していた「創作意図」とAI利用者の「創作的寄与」の程度によって判断されるとあります(同ガイダンス、3-1-7)。
著作物性が取引で問題になる場面も挙げられています。AI生成物をライセンス契約等の取引の対象とするとき、「当該AI生成物が著作物であるかどうかが取引の重要な要素となる場合も想定されます」(同ガイダンス、3-1-6)。AIに作らせたものを納品物や販売物に含めるなら、それが自社の著作物になるかどうかが取引の条件になります。その説明に使うのも、生成に用いた指示の記録です。
明日からできること
決めるのは、社外に出す前の一手間です。
生成AIに作らせたものを社外に出す種類を、まず書き出します。提案書の図、サイトに載せる文章、製品の画面、納品する成果物。原典が判断を分けているのは、社内の検討で止まるものと、社外に出るものです。
社外に出るものについて、出す前に検索で似ていないかを見る担当を決めます。手段は原典が挙げているとおり、文章検索と画像検索です。決めないと、この確認は誰の仕事にもなりません。
あわせて、生成に使った指示を残す置き場所を決めます。使うのは、あとから元の作品を知らなかったことを説明するときと、自社の著作物だと説明するときです。
AIの利用規程は、あったほうがよいものです。ただ、先に来るのは上の三つです。規程を作っても、社外に出るものが分かっていなければ、どこに確認を挟むかが決まりません。