この記事で分かること

  • 個人に業務委託するとき、発注する会社の規模によって義務が変わるか
  • 令和7年度の勧告10件が、そろって含んでいた違反は何か
  • 発注した日に、何を書いて渡すことになっているか

エンジニアやデザイナーに、個人で仕事を頼んでいないでしょうか。契約のときには、書面を交わしたはずです。そのあとの発注のたびには、渡していないかもしれません。

相手が個人なら、発注する側の規模で義務は変わらない

公正取引委員会は、令和7年度の運用状況を2026年6月10日に公表しました。扱っているのはフリーランス・事業者間取引適正化等法の第2章で、取引の適正化を定めた部分です(同運用状況)。

この法律が「特定受託事業者」と呼ぶのは、業務委託の相手方である事業者であって、従業員を使用しないものです。従業員を使用しない個人のほか、代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人が入ります(第2条第1項)。

発注する会社は「業務委託事業者」です。定義は、特定受託事業者に業務委託をする事業者。資本金の額も、従業員の数も、この定義に入っていません(第2条第5項)。

取適法(旧・下請法)では、資本金の規模または従業員数と取引の内容で、当事者が決まります。この法律は、そこが違います。相手が従業員を使わない個人なら、自社の規模にかかわらず、取引条件を明示する義務がかかります。フリーランスがフリーランスに頼む取引も対象です。

対象になる業務にも、業種の限定がありません。プログラム、映像、設計図やデザインの作成は「情報成果物の作成委託」に当たります。さらに、取適法では対象外になる「自社で用いる役務の委託」も、この法律では対象です(同パンフレット)。

勧告10件は、すべて同じ違反を含んでいた

令和7年度の勧告は10件です。違反行為の類型で見ると、取引条件の明示義務違反が10件、期日における報酬支払義務違反が9件、報酬の減額が1件、不当な経済上の利益の提供要請が1件。一つの勧告に複数の類型が含まれるため、合計は勧告件数と一致しません(第1 2(2)ア、別紙)。

10件すべてに、明示義務の違反が入っています(第1 2(2)ア、別紙)。

公正取引委員会は、具体的な違反行為も書いています。一つは、業務委託をした際に、直ちに書面または電磁的方法による明示をせずに口頭で業務委託をした行為。もう一つは、明示はしたが、明示しなければならない事項に不備があった行為。

勧告を受けた10社には、出版社、放送局、番組制作会社、音楽教室、結婚相談所が並びます。電力会社も1社入っています。その会社が委託していたのは、総務・広報、人事・労務、経理・法務、研究・開発、設備の管理・評価に関する支援業務です(第1 2(2)ア、別紙)。この支援業務は、その会社が自社で用いる役務です。

施行は令和6年11月1日です。施行から令和7年3月までの5か月では、申出が92件、勧告は0件、指導は54件でした。そこから1年で、勧告は10件、指導は1,542件になっています(同運用状況)。

措置の37.0%は、情報通信業だった

公正取引委員会は、相手からの申出を待つだけにしていません。令和7年度は、問題事例の多い業種の業務委託事業者3万名を対象に、フリーランスとの取引に関する調査を実施しています。申出は604件、そこから新規に着手した違反被疑事件は1,626件です(同運用状況)。

公正取引委員会が令和7年度に措置を講じたのは1,552件です。内訳は、勧告10件と指導1,542件(第1 3)。

業種別に見ると、情報通信業が最も多く575件で、37.0%です。次いで学術研究、専門・技術サービス業が326件で21.0%、運輸業、郵便業が135件で8.7%(第1 3)。

公正取引委員会は理由も書いています。これらの業種に属する事業者が多いことと、これらの業種で特定受託事業者への業務委託が多く行われていることです。

違反行為の類型別では、全体で2,727件です。期日における報酬の支払義務違反が1,135件で41.6%、取引条件の明示義務違反が1,126件で41.3%、買いたたきが250件で9.2%。この三つで9割を超えます(第1 4)。

措置の中身は、書いていないことと期日を決めていないことに集中している 令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況(公正取引委員会、令和8年6月10日)第1の4。違反行為の類型別件数は合計2,727件。期日における報酬の支払義務違反が1,135件で41.6%、取引条件の明示義務違反が1,126件で41.3%、買いたたきが250件で9.2%。受領拒否、返品、報復措置はいずれも0件。 違反行為の類型別件数(令和7年度、合計2,727件) 期日における報酬の支払義務違反 1,135件 取引条件の明示義務違反 1,126件 買いたたき 250件 受領拒否、返品、報復措置は、いずれも0件

一方、受領拒否、返品、報復措置は、いずれも0件です(第1 4)。措置の対象になっているのは、揉めごとではありません。多いのは、書いていないことと、期日を決めていないことです。

支払期日は、日を特定して書く

報酬の支払期日は、給付を受領した日から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内に定めます。この義務がかかるのは「特定業務委託事業者」で、従業員を使用する事業者、または二以上の役員がいる法人です(第2条第6項)。

支払期日を定めなかったときは、給付を受領した日が支払期日と定められたものとみなされます。60日を超えて定めたときは、受領した日から起算して60日を経過する日です(第4条第2項)。

書き方にも決まりがあります。「◯月◯日まで」「◯◯日以内」は、具体的な日を特定できないため、支払期日を定めたとは認められません。「毎月◯日締切、翌月◯日支払」という月単位の締切制度は認められます(同パンフレット)。

令和7年度の勧告では、支払期日を定めていなかった例が並んでいます。放送局が32名に対して、通信社が41名に対して、支払期日を定めていませんでした(第1 2(2)ア、別紙)。

2026年1月から、振込手数料の差引きは減額に当たる

振込手数料の扱いが、2026年から変わりました。令和8年1月1日以降に業務委託する取引からは、相手との合意の有無にかかわらず、口座に報酬を振り込む際の手数料を相手に負担させ、報酬の額から差し引くことが、報酬の減額に当たります(第1 2(2)ア、別紙)。

令和7年度の勧告のうち1件が、この振込手数料の差引きでした。手数料を相手の負担とすることを書面または電磁的方法で合意することなく、67名の報酬から差し引いていた例です(第1 2(2)ア、別紙)。

減額の禁止がかかるのは、1か月以上の業務委託です。名目や方法、金額を問わず、あらゆる減額行為が禁じられています(同パンフレット)。

勧告に従わない場合には、命令と公表があります。命令に違反したときは50万円以下の罰金で、法人への両罰規定もあります(同パンフレット)。

明日からできること

決めるのは、いま個人に頼んでいる仕事について、発注のときに何を渡すかです。

まず、従業員を使っていない個人に頼んでいる仕事を、書き出します。相手が法人でも、代表者以外に役員がなく従業員も使用していなければ、この法律の対象です。

次に、発注のたびに渡しているものを確かめます。明示することになっているのは八つで、双方の名称、業務委託をした日、給付の内容、給付を受領または役務の提供を受ける期日、その場所、検査を完了する期日、報酬の額と支払期日、金銭以外の方法で報酬を支払う場合の支払方法です。検査と金銭以外の支払は、該当する取引のときだけ明示します。

渡し方は書面でも電磁的方法でもよく、どちらにするかを選ぶのは発注する会社です。電子メール、SNSのメッセージ、チャットツールが電磁的方法に当たります。電話など口頭で伝えることは認められません。

SNSを使う場合には、条件が付きます。認められるのは、送信者が受信者を特定して送信できるメッセージ機能だけです。ブログやウェブページへの書き込みは認められません。サービスが終了して明示の内容を確認できなくなり、相手から書面の交付を求められたときは、書面で交付することになります。

最後に、支払期日を日で決めます。決める日は、受領した日から起算して60日以内で、できる限り短い期間内です。振込手数料をどちらが負担するかも、あわせて書きます(同パンフレット)。

何を頼んだかを書けていないと、受け取ったものが違ったときに、どちらが直すかを決められません。発注のときに何を書くかを決めるのは、発注する会社です。