この記事で分かること

  • 契約したあとの仕様変更で、追加の費用を負担するのはどちらか
  • 検査について、発注の前に協議して決める項目の数
  • 検査に合格したあとで指摘が来たときの、負担の分け方

委託先に作ってもらったものを、検査して受け取りました。動いています。そのあとで、社内の別の部署か取引先から「ここが違う」と指摘が来ます。

作り直してもらうことになります。そのときの費用を、どちらが持つのか。国の告示に、そこが書かれています。

費用をどちらが持つかは、三か所に書かれている

経済産業省が出している「振興基準」です。受託中小企業振興法の第3条第1項に基づく告示で、令和8年6月24日付けで改正されました(経済産業省、振興基準)。附則は「公布の日から施行する」と書いています(同基準、附則)

委託する側と委託される側の取引について、決め方の基準を書いたものです。全体は八つの章に分かれています(同基準)そのうち、やり直しと仕様変更の費用について書いているのは三か所です。

一つ目は、契約したあとで設計や仕様を変えるときです。「既に契約締結し、発注した物品等に係る設計、仕様等を変更しようとするときは、中小受託事業者に損失を与えることとならないよう十分に配慮して変更するものとし、かつ、その変更による追加コストは委託事業者が負担するものとする(同基準、第2の8⑵)。委託事業者は、発注する側です。

同じ項の前には、こう書かれています。「委託事業者は、契約後に不当なやり直しや受領拒否が生じないよう、発注に際して中小受託事業者に対して示すべき設計図、仕様書等の内容を明確にするものとする」(同基準、第2の8⑴)。やり直しの話は、発注のときの書き方から始まっています。

二つ目は、短い納期や急な仕様変更を頼むときです。「やむを得ず、短納期又は追加の発注、急な仕様変更等を行う場合には、中小受託事業者が支払うこととなる残業代等の増加コストを負担するものとする(同基準、第4の7⑵)

三つ目が、検査に合格したあとの話です。三か所のうち、いちばん長く書かれているのがここです。

合格したあとに指摘が来たとき

検査に合格したあと、納入先から指摘が来て、やり直すことになったとき。まずやるべきことは、原因を明らかにすることです。

「当該物品等の不具合の有無及びその原因を明らかにし、その引取り、やり直し又は損害賠償に必要となる人員の手当、金銭の支払等について、委託事業者がすべてを負担せず中小受託事業者にも負担を求めることの必要性及び合理性の有無を、十分に確認するものとする」(同基準、第4の4⑶)

そして続きにこう書かれています。「委託事業者及び中小受託事業者双方が合理的な割合で負担するものとし、一方的に中小受託事業者に引取り、やり直し又は損害賠償を負担させないものとする(同基準)

振興基準が費用の持ち方を書いている三つの場面 振興基準が費用の持ち方を書いている三つの場面。契約後に設計や仕様を変えるときの追加コストは発注する側が負担する。短納期や急な仕様変更を頼むときの増加コストも発注する側が負担する。検査に合格したあとの指摘は、原因を明らかにして双方が合理的な割合で負担する。 振興基準が費用の持ち方を書いている三つの場面 契約後に設計・仕様を変える 発注する側が負担 短納期・急な仕様変更を頼む 発注する側が負担 検査に合格したあとの指摘 原因を調べて、割合で分ける 一方的に相手に負わせない、と書かれている

分ける割合は、告示に数字で書かれていません。書かれているのは、原因を明らかにすること、双方が得た取引対価を勘案して協議すること、一方に寄せないことです(同基準)

違反かどうかとは、別の線

この三つ目の場面については、別の法律にも定めがあります。取適法(旧・下請法)は「不当な給付内容の変更及び不当なやり直し」を、禁止行為11項目のうちの10番目に置いています(公正取引委員会、委託事業者の禁止行為)

ただし、この二つは別の線です。振興基準は、禁止ではありません。書き方が「〜するものとする」で、費用の持ち方を示す基準です(同基準)

禁止に当たるかどうかは、起きたあとの判断になります。振興基準が書いているのは、その前に決めておくことのほうです。

検査の決め方は、発注の前に決める

その「前に決めておくこと」が、検査の節にあります。発注しようとする場合に、あらかじめ協議して定めるものが五つ挙がっています(同基準、第4の4⑴)

納品の検査の実施方法、実施時期、その発注に係る物品等の適正な検査基準、検査の結果不合格となった物品等の取扱い、納品の過不足の場合の処理の方法(同基準)

原典は「あらかじめ中小受託事業者と協議して定めるものとする」と書いています(同基準)。発注の前です。そして検査の基準を、頼む側が一人で決めるのでもありません。

五つのうち三つ目が、検査基準です。合格と不合格を分ける線が、ここで決まります。原因を調べるときに使うのが、この線です。

短納期と急な仕様変更は、名指しされている

振興基準には、望ましくない事例や不利益となる事例として、具体的な形を名指しで並べている箇所があります。やり直しに近いのは、第4の7に並んでいる六件です(同基準、第4の7⑶)

「適正なコスト負担を伴わない短納期発注又は急な仕様変更」「無理な短納期発注に対する納期遅れを理由とした受領拒否又は減額」「委託事業者自らの人手不足又は長時間労働の削減による検収体制の不備に起因した受領拒否又は支払遅延」「委託事業者自らの人手不足又は長時間労働の削減に起因した、適正なコスト負担を伴わない人員の派遣要請又は付帯作業の要請」(同基準)。残る二件は、配送と、納期や工期が特定の時期に集まることについてです(同基準)

三件目に「検収体制の不備」が入っています。検査が回らないことが、受領拒否や支払遅延の理由として名指しされています。手が足りないので検収が遅れました、では済まない形です。

受け取った日は、検査をしていなくても動かない

合格したあとかどうかで分かれるので、いつ受け取ったことになるかが先に決まっている必要があります。振興基準は、受け取った日を支払期日の起算にも使っています。「当該受領をした日(以下「受領日」という。)から起算して60日以内において定める支払期日までに、代金を支払うことを徹底する」(同基準、第4の3⑴)

その受領日がいつになるかは、検査の節に書かれています。「検査の実施にかかわらず当該目的物を自己の支配下に置いた日を受領日とする」(同基準、第4の4⑵)

検査が済んでいなくても、受け取った日は動きません。手が回らなかった、という理由では後ろにずれません。原典は、検査を「納品後、速やかに」行うものとするとも書いています(同基準)

明日からできること

先に手を付けるのは、一つです。

いま動いている委託の契約書か発注書を開いて、検査について何が書いてあるかを見ます。上の五つがあるかどうかです。検査の実施方法、実施時期、検査基準、不合格になったときの取扱い、過不足のときの処理です。

書かれていないものがあれば、やり直しのときに費用の話が付かなくなることがあります。原因を明らかにするには、合格の基準が要ります。基準が書かれていなければ、不具合があったのか、あとから出た要望なのかを、後から分けられません。

次に頼むときは、その五つを協議して決めてから発注します。振興基準は「あらかじめ」と書いています(同基準、第4の4⑴)

一方で、急がなくてよいこともあります。負担の割合を、先に決めておく必要はありません。告示が求めているのは、原因を明らかにして協議することです(同基準、第4の4⑶)

それと、振興基準の書き方は「〜するものとする」です。取適法の禁止行為とは性質が違います。それでも、費用をどう分けるかを相手と話すときの土台になります。