この記事で分かること
- ガイドに載っている要求項目と問題・リスクの数
- 要求項目を選ぶ前に、自社について答えておく九つの項目
- 64項目のうち、契約と体制で決まるものの数
システムを新しくするとき、決めることはいくつもあります。クラウドにするかオンプレミスにするかも、その一つです。
どちらにするかを決めるために、クラウドサービスや機器を並べて、機能と価格を比べます。その表を作る前に、導入する条件を決める順番が、公のガイドに書いてあります。
この記事で扱う範囲
IPAが「重要情報を扱うシステムの要求策定ガイド」を出しています。2026年7月27日にVer.1.1へ改訂されました(IPA、要求策定ガイドのページの更新履歴)。
ガイドが名指ししている対象は、通信や電力のように、止まると社会に影響が及ぶシステムです。例として挙がっているのは、通信網と付帯設備、電力供給に係わるシステム、災害影響予測システム、鉄道運行管理システムです(同ガイド、4.1 対象システムの例)。
導入する条件を、ガイドは「要求」と呼びます。調達先に指示するものが要求で、自社で構築・運用する場合は「ベンダーに指示する要求を自らが行う要件として読み替えが必要となる」と書いてあります(同ガイド、1.3 本ガイドの利用シーンとステークホルダー)。ここから先は、ガイドの言葉に合わせて要求と書きます。
要求項目の中身は、上の対象を前提に書かれています。そのまま自社の調達仕様書に写すものではありません。ここで扱うのは、条件を決める順番のほうです。止まったときに何が困るかを先に決めて、それから項目を選ぶ。この順番は、ガイドの対象でないシステムでも参考になると思います。
要求項目は64、問題・リスクは56
ガイドは項目に番号を振っています。「関係者間で問題・リスクや対策に対して会話しやすくするように、「問題・リスク」項目ごとに番号(P1~U8)を、「対策(要求項目)」項目ごとに番号(A1~F-7)付与している」と書かれています(同ガイド、2.1.3 問題・リスクの選定方法)。
番号を数えると、対策(要求項目)が64、問題・リスクが56ありました(同ガイド、2.2 自律性確保のための要求項目一覧と2.3 利便性確保のための要求項目一覧の番号を当社が数えた。欠番なし)。
上の五つを合わせた57が自律性の確保で、残る7が利便性の確保です(同ガイド、2.2と2.3の番号を当社が合計)。問題・リスクの56も同じ五つと利便性に分かれ、自律性が48、利便性の要素が8です(同ガイド、2.2と2.3の樹形図の番号を当社が数えた)。
ガイドは、全部書くことを求めていない
64項目は一覧ですが、そのまま調達仕様書に写す表ではありません。ガイドは「要求項目は、システムの特性により異なり一律とならないため、管理者自らが必要な項目を取捨選択し、要求項目を策定できるものとした」と書いています(同ガイド、1.2 本ガイドの目的と位置づけ)。
選ぶ手順は、三つのステップに分かれています(同ガイド、2.1.1 要求項目の策定ステップ)。
- システムの特性を評価する
- 問題・リスクと、利便性の要素を選ぶ
- 必要な対策を選ぶ
64項目に手を付けるのは、三つ目のステップです。一つ目と二つ目を飛ばして項目を選ぶと、何を落としたかを説明できなくなります。
先に決めるのは、九つの評価
一つ目のステップの特性評価は、九つの項目です(同ガイド、2.1.2 システムの特性評価方法)。自律性に五つ。
- データの内容・種類
- データ数(≒データの漏洩による影響)
- 漏洩・改ざん後、取返しがつく/つかない
- データの利用不可・システムの停止などによる影響
- 即時的な代替手段の有無
利便性に四つ。
- 新機能のリリース頻度(≒システム構成の変更頻度)
- 業務のピーク特性
- 先進標準技術への追随(≒レガシー化のリスク)
- ポータビリティの確保(≒ベンダーロックインのリスク)
この九つで決めるのは、優先することです。「データの漏洩・改ざんなどの防止」を優先するのか、「データの利用不可・システム停止などの防止」を優先するのか、または両方なのかを見極める、とガイドは書いています(同ガイド、2.1.1)。
九つは、どれも自社の状況を答えるものです。自社のデータが何件あるか、止まったときに代わりの手があるか、繁忙期に業務量が何倍になるか。答えられるのは自社だけです。
対策は、単品では選べない
三つ目のステップでも、項目を一つずつ拾う形になっていません。ガイドは「対策の項目間で関連性があるものに対しては、関連性を踏まえたうえで対策を選定する」と書いています(同ガイド、2.1.4 必要な対策の選定方法)。
例に挙がっているのは、データの暗号化にまつわる四つです(同ガイド、2.1.4)。
- A-3 データの暗号化の確保
- A-4 暗号鍵の安全・分離保存
- A-5 暗号鍵のハードウェア分離
- A-6 暗号鍵管理の組織分離
ガイドの書き方はこうです。「A-3を前提としてA-4も実施すべきか、さらに、A-3、A-4を前提としてA-5やA-6まで実施すべきかは、対策の目的を踏まえたうえで判断する」(同ガイド、2.1.4)。
暗号化していますという答えは、この四つのどこまでかを言っていません。下から積み上げるほど、要求も費用も変わります。
11項目は、サービスや機器ではなく契約と体制で決まる
64項目のうち、対策の目的か要求項目の本文に「日本法」または「日本国内」が出てくるものを数えると、11項目ありました(同ガイド、2.2の対策一覧で語の有無を当社が数えた)。運用にB-1からB-5の五つ、ソフトウェアにC-7とC-9、データセンター・通信にE-1、E-2、E-3、E-8です。
中身は、たとえばこうです(同ガイド、2.2 自律性確保のための要求項目一覧)。
- B-1 運用体制への国内法の強制 ──「運用者は日本法によって設立された法人であること」
- E-8 通信経路の信頼性確保 ──「日本国内に閉じた通信路が少なくとも1経路確保されていること」
これらは契約と体制の話です。サービスや機器の機能と価格を比べる表を作っても、この11項目は空欄のまま残ります。埋めるには、契約書に何と書くか、運用をどこに置くかを決めることになります。
明日からできること
決めるのは、九つの評価のうち二つです。
止まったときに、代わりの手があるか。そして、漏れることと止まることのどちらを先に防ぐか。
この二つは、一つ目のステップにある「即時的な代替手段の有無」と、優先する内容の見極めに当たります(同ガイド、2.1.1と2.1.2)。どちらも、サービスや機器を調べて出る答えではありません。
決まっていれば、64項目のうちどれを要求し、どれを落とすかを説明できます。決まっていないと、選ぶ材料がベンダーの出した一覧だけになります。
ガイドは、要求仕様を誰が書くかについても三つの場合を挙げています。そのうちの一つが「委託先(コンサルなど)が調達仕様書を策定する場合」です(同ガイド、1.3 本ガイドの利用シーンとステークホルダー)。ただし九つの評価に答えるのは、どの場合でも自社です。