この記事で分かること

  • 広告業への集中調査で、何件の指導が行われたか
  • 基本契約書に無償譲渡と書いていた事例が、どう扱われたか
  • 知的財産権を譲り受けるとき、発注側が何をすればよいか

委託先が作った成果物の権利を、あとで自社が使えるようにしておきたい。基本契約書に「知的財産権は無償で譲渡する」と書いておけば済む。そう考えていないでしょうか。

その書き方が、指導の対象になりました。

広告業者への指導が71件、事例が21件公開された

公正取引委員会と中小企業庁が、2026年6月29日に調査の結果を公表しました(同調査結果)。対象は、発注側である広告業者と受注側である広告制作業者との間の取引です(同調査結果)。

令和8年2月以降の調査で、広告業者に対して71件の指導が行われました(同調査結果)。指導事例の概要は別紙1にまとまっており、公開されているのは21件です(同調査結果、別紙1)。

対象の取引は幅があります。新聞広告、雑誌広告、テレビ広告、インターネット広告、交通広告、屋外広告の制作と、広告に付随するイベントの企画運営が含まれます(同調査結果)。

指導の事例とは別に、受注側の声も載っています。中小企業庁が平成29年から配置している取引調査員が、広告制作業者から聴取した内容です(中小企業庁)。原典の表記は「取引Gメン」で、これは取引調査員の通称です(中小企業庁)。別紙2に13件あります(同調査結果)。ただし原典は「一方の取引当事者からのヒアリング内容をまとめたものであり、調査を行って、取適法に違反し、又は違反するおそれのある行為を認定したものではない」と断っています(同調査結果)。

調査の対象は広告業です。挙がっているのは、口頭での発注、あとから変わる仕様、成果物の権利の扱いです。原典は、これらを「広告業界全体の商慣習に起因するものも多くみられた」としています(同調査結果)。

受託開発でも、同じ形になります。

基本契約書に書いても、無償の譲渡は指導を受けた

21件のうち、知的財産権が出てくるのは三つです(同調査結果、別紙1)。

知的財産権が挙がった三つの場面と、当たった条文 広告業における取適法違反被疑事件の集中調査の結果(公正取引委員会、中小企業庁、2026年6月29日)別紙1による。発注時に譲渡させる旨を明示していなかった事例は取適法第4条の明示不備。発注内容に含めずに無償で譲渡させた事例と、基本契約書に無償で譲渡させる旨を記載していた事例は、いずれも第5条第2項第2号の不当な経済上の利益の提供要請。 知的財産権が挙がった三つの場面と、当たった条文 発注時に、譲渡させる旨を明示していなかった 第4条(明示不備) 発注内容に含めずに、無償で譲渡させた 第5条第2項第2号 基本契約書に「無償で譲渡させる」と書いた 第5条第2項第2号 別紙1の21件のうち三つ。第5条第2項第2号は「不当な経済上の利益の提供要請」

三つ目が、いちばん重い形です。原典は事例をこう書いています。「基本契約書に『知的財産権は無償で譲渡させる。』と記載した上で、広告制作業者の給付の内容には含まれない知的財産権を無償で譲渡させていた」(同調査結果、別紙1)。

契約書に書いてあることが、根拠にならなかった形です。

指導の内容も書かれています。「委託事業者が、中小受託事業者に十分な対価を支払うことなく自己のために知的財産権を提供させることは不当な経済上の利益の提供要請に該当する」(同調査結果)。そのうえで「広告制作業者と協議の上で知的財産権に係る対価を定め、当該対価を支払うよう指導を行った」とあります(同調査結果)。

求められているのは、条項を消すことではありません。対価を協議して定めることです。

この形は、以前から声が上がっていました。中小企業庁は、取引調査員が集めた声のうち政府の基準改正に反映してきたものを五つ挙げています(中小企業庁)。その一つが「自社が生み出した知的財産について、無償による譲渡を強要される」です(中小企業庁)。

発注時に明示していなければ、譲渡させること自体が挙がる

知的財産権の一つ目は、条文が違います。原典は「広告制作業者に広告の制作過程で発生した知的財産権を譲渡させているにもかかわらず、その旨を発注内容として明示していなかった」と書いています(同調査結果、別紙1)。当たったのは第4条の明示不備です(同調査結果、別紙1)。

まとめの部分にも同じことが書かれています。「広告制作業者の成果物の知的財産権を譲渡・許諾させる場合であって、当該知的財産権を給付の一部とする場合には、その旨を発注時に明示することが重要である」(同調査結果)。

明示の不備は、知的財産権だけではありません。別紙1には、電子データの提出先を明示していなかった事例、支払期日と支払方法を明示していなかった事例、受入検査を行っているのに検査完了期日を明示していなかった事例が並んでいます(同調査結果、別紙1)。

21件のうち8件が、明示に関するものです(同調査結果、別紙1)。内訳は不明示が3件、明示不備が5件です(同調査結果、別紙1)。

明示しない理由として挙がったものも書かれています。口頭発注が商慣習であること、掲載までの期間が短いこと、継続的な取引なので相手も条件を分かっているはずだということ(同調査結果、別紙1)。原典は「口頭発注という業界の商慣習を早急に見直し、適切に発注内容等を明示することが求められる」としています(同調査結果)。

手形を電子記録債権に替えても、支払遅延のままになる

令和8年1月に施行された取適法で、禁止行為が増えています。原典が挙げているのは二つです(同調査結果)。

一つは手形払いです。「手形を交付することによって代金を支払うこと及び手形以外の支払手段であって支払期日までに代金に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを代金の支払手段として使用することは『支払遅延』として禁止されている」(同調査結果)。

そのうえで原典は、誤解が起きていると書いています。「手形払が禁止されたことは認識していても、単に手形払を電子記録債権払に切り替えていれば問題ないと誤解している広告業者が複数みられた」(同調査結果)。支払サイトを維持したまま切り替えた事例が、別紙1に載っています(同調査結果、別紙1)。

もう一つは振込手数料です。「銀行口座へ振り込む際の手数料を中小受託事業者に負担させることは、中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、『減額』として禁止されている」(同調査結果)。

合意の有無を問わない、と書かれています。知的財産権の三つ目と同じ形です。

取引Gメンが聞き取った声にも、受託開発でそのまま起きるものがあります。「取引先である広告代理店が開発したシステムの利用を余儀なくされている。利用しなくとも業務に支障はないばかりか、対価にも見合っていないと感じている」(同調査結果)。取適法の第5条第1項第6号、購入・利用強制に当たる可能性のある行為として整理されています(同調査結果)。

自社が作った道具を、委託先に使わせていないか。使わせているなら、その対価をどちらが持っているかを見ます。

業種を絞った集中調査は、令和7年以降で三度目

原典は、この調査のやり方についても書いています。令和7年以降、特定の業種における取適法違反被疑行為について集中的に調査を行い、迅速に指導等を行っているとあります(同調査結果)。

過去の集中調査は、別添に二つ載っています(同調査結果)。

自動車ディーラーと車体整備事業者の間の取引で、2件の勧告と160件の指導。令和7年12月22日に公表されました(同調査結果)。運送事業者間の取引では、2件の勧告と530件の指導。翌23日の公表です(同調査結果)。

次にどの業種を見るかは、書かれていません。集中調査は三度続いているので、四度目があると考えています。

明日からできること

決めるのは、委託先が作った成果物の権利を、いくらで受け取るかです。

まず、いま使っている基本契約書の知的財産権の条項を読みます。「無償で譲渡する」と書いてあるなら、そこが今回の三つ目と同じ形です。

次に、その権利が代金に含まれているかを確かめます。原典が問題にしたのは、給付の内容に含まれない知的財産権を無償で譲渡させた点です(同調査結果)。見積書のどの行が、その対価にあたるかを言えるかどうかです。

言えないときは、相手と協議して対価を定めます。原典の指導も「協議の上で知的財産権に係る対価を定め、当該対価を支払うよう」という形です(同調査結果)。

発注書の明示すべき項目も、あわせて見ます。受領する場所、支払期日と支払方法、検査完了期日、知的財産権の扱い。別紙1で明示不備に当たったのは、この四つです(同調査結果、別紙1)。

相手が受注側のときも、同じ表が使えます。自社が受けた発注書に、これらが書かれているかを見ます(同調査結果、別紙1)。

条項を消すと、権利が自社に来ません。対価を分けて書くほうが、あとで成果物を自由に使えます。