この記事で分かること
- フリーランス法で指導が最も多いのは、どの義務の違反か
- 業務委託について講じなければならない措置は何か
- 社員向けの就業規則がどこまで使えるか
フリーランス法で指導が最も多いのは、募集情報でも契約の解除でもありません。ハラスメント対策の体制整備です。
指導が最も多いのは、体制整備の義務
厚生労働省が、就業環境整備のポイントというページでこう書いています。「都道府県労働局における法施行状況をみると、特定業務委託事業者である発注事業者による『ハラスメント対策に係る体制整備義務(法第14条)』の違反に関する指導が最も多く、そのほか、『中途解除等の予告・理由開示義務(法第16条)』や『募集情報の的確表示義務(法第12条)』の違反に関する指導等も見受けられます」(整備のポイント)。
フリーランス・事業者間取引適正化等法は、令和6年11月1日に施行されました。取引の適正化に係る規定は主に公正取引委員会と中小企業庁が、就業環境の整備に係る規定は主に厚生労働省が執行を担います(案内ページ)。第14条は後者です。
対象になる言動に、取引の優越を背景にしたものが入る
条文はこうです。「特定業務委託事業者は、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対し当該業務委託に関して行われる次の各号に規定する言動により、当該各号に掲げる状況に至ることのないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない」(法第14条第1項)(法)。
各号に挙がっているのは、性的な言動によるもの、妊娠または出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものについての言動によるもの、そして「取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたもの」によるものです(法)。
性的な言動については、対応例に載っている社内規定のひな形が「相手の性的指向又はジェンダーアイデンティティの状況にかかわらず、異性に対する言動だけでなく、同性に対する言動も該当する」と書いています。妊娠・出産等については、法第13条の配慮の申出をしたことや配慮を受けたことに関する言動も入ります(対応例)。
三つ目が言うのは、取引上の優越的な関係です。発注する側と受ける側という関係そのものが、背景に置かれています。
境目も同じひな形に書かれています。「客観的にみて、業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲で行われる適正な指示及び通常の取引行為としての交渉の範囲内の話合いについては、業務委託におけるパワーハラスメントには該当しない」と書いています(対応例)。
場所についても同じひな形が定めています。「業務委託に関して行われる」とは、その業務を遂行する場所または場面で行われるものをいい、通常業務を遂行している場所以外の場所であっても、業務を遂行している場所については含まれます(対応例)。
講じなければならない措置は四つ
厚生労働省が挙げている措置は四つです(整備のポイント)。
四つ目は、ほかの三つとあわせて行うものです。相談者や行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じて従業員とフリーランスに周知すること、そしてフリーランスが相談したこと等を理由に契約の解除などの不利益な取扱いをされない旨を定めて、フリーランスに周知すること(整備のポイント)。
社員向けの体制は、そのままでは使えない
令和7年度の指導事例に、そのままの形が載っています。リモートワーク環境での業務請負事業を営む会社が経理業務を委託していたところ、従業員に対するハラスメント対策に係る規定や相談窓口は整備していたものの、業務委託におけるハラスメント対策に係る規定や相談窓口を整備していなかった、というものです(指導等事例)。
非営利団体の事例もあります。厚生労働省は「非営利団体でも、事業活動を行う場合には、法の適用対象となり、法第14条に基づく対応が必要です」と注記しています(整備のポイント)。
ただし、一から作り直す話ではありません。対応例には、就業規則の懲戒規定が、いまの文言のままで業務委託におけるハラスメントにも当てはまると読める場合は、それが適用の対象になることをパンフレット、リーフレット、社内報、社内ホームページ等で周知することで措置を講じたことになる、と書かれています(対応例)。
規定の置き方の例も並んでいます。就業規則に業務委託におけるハラスメントを禁止する旨の規定を置いて、詳細を別規定に委ねる形。懲戒の事由に業務委託におけるハラスメントの言動を列挙する形(対応例)。
相談したことを理由に、契約を切ってはならない
第14条には第2項があります。「特定業務委託事業者は、特定受託業務従事者が前項の相談を行ったこと又は特定業務委託事業者による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その者に対し、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをしてはならない」(法)。
指導事例にも出てきます。運送業を営む会社が、業務委託におけるハラスメント対策に係る体制整備に関し、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置と、相談を行ったこと等を理由として不利益な取扱いをしてはならない旨を定めていなかった、というものです(指導等事例)。
もう一件、対応をしたのに指導を受けた事例があります。娯楽業を営む会社が特定受託業務従事者からパワーハラスメントの相談を受け、事実関係を調査するなどの必要な対応をしていたが、ハラスメントの再発防止に向けた措置を講じていなかった(指導等事例)。
厚生労働省の指導等事例には、注が付いています。ハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、改めて方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じる必要がある(指導等事例)。
対応例には、フリーランスに伝える文面の例まで載っています。「なお、当社においては、業務委託におけるハラスメントに関して相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じております。また、業務委託におけるハラスメントに関する相談をしたこと等を理由として、契約の解除等の不利益な取扱いをいたしません。相談にあたっては、安心してご連絡ください」(対応例)。
相談できる人の範囲も広く取られています。対応例の規定例は、被害を受けたフリーランスに限らず、その会社と契約するすべてのフリーランス及び従業員が相談を申し出ることができる形になっています(対応例)。
明日からできること
決めるのは、いま業務委託で頼んでいる相手に、何をどう伝えるかです。
まず、業務委託で頼んでいる相手を書き出します。開発を頼んでいるエンジニア、デザイナー、ライター。対応例のひな形は、契約交渉中の相手についても、これに類する行為を行ってはならないと書いています(対応例)。
次に、就業規則の懲戒規定を開きます。いまの文言のままで業務委託にも当てはまると読めるかを見ます。当てはまると読めるなら、業務委託も対象になることを周知することで、方針の措置になります(対応例)。相談窓口の整備は、それとは別に要ります。
最後に、相談窓口をどう伝えるかを決めます。対応例が挙げているのは、業務委託契約に係る書面やメール、フリーランスが定期的に閲覧するイントラネット等に記載・掲載する方法です(対応例)。
窓口を作っても、相手が知らなければ相談は来ません。伝える先は、社員ではなく委託している相手です。