この記事で分かること
- 9割が「人が足りない」と答える調査で、同時に起きていること
- 「足りない」の感じ方が、何によって変わっていたか
- 採用や育成に動く前に、自社で決められること
「DXを進める人が足りない」。この一言から、求人票を作る作業が始まります。ところが応募は来ず、来ても決め手に欠ける。採用できたとしても、しばらくすると同じ言葉がまた出てきます。
9割が「足りない」と答えている
IPAが2026年7月30日に公開したDX動向2026は、国内企業1,799社の回答をまとめた調査です。DXを推進する人材の「量」について、「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた企業は合わせて85.5%でした(図表4-1)。「質」のほうは88.8%です(図表4-3)。従業員301人以上の企業では9割を超え、100人以下でも7割を超えています(図表4-4)。
ここでの対象は、何らかの形でDXに取り組んでいると答えた企業です。取り組んでいない企業は、この9割の中に入っていません。
ただし、深刻さは少し和らいでいます。「大幅に不足している」に限ると50.1%で、2023年度の62.1%、2024年度の58.5%から下がりました。報告書自身が「やや解消傾向にある」と書いています(図表4-1)。
不足していること自体は変わっていません。変わったのは、その重さのほうです。
同じ調査に、もう一つの数字がある
同じ章に、並べて読むと様子が変わる数字があります。
DX推進に必要なスキルについて、「必要なスキルは把握できていない」と答えた企業は52.8%でした(図表4-8)。DX人材の評価基準については、「基準はない」が76.1%です(図表4-6)。そして、DXを推進する人材像を「設定し、社内に周知している」と答えた企業は16.2%で、前年度の20.4%から下がっています(図表4-5)。
9割が足りないと答えている一方で、何がどれだけ要るのかを決めている企業は、そう多くありません。
「足りない」の重さは、測っているかどうかで変わる
報告書は、この二つを掛け合わせています。
スキルの把握状況で分けて、人材の「質」が「大幅に不足している」と答えた割合を見ると、スキルを把握している企業は40.6%、把握できていない企業は64.0%でした(図表4-10)。24ポイントの差です。報告書は「スキルの把握状況が人材の『量』『質』の適切な把握や確保と関連していると言える」と書いています。
どちらが先かは、この調査からは分かりません。ただ、必要な量が決まっていなければ、足りているかどうかも決めようがありません。
「人が足りない」と言うとき、何が起きているか
技術の判断ができる人が社内にいない。だから、何ができる人が要るのかを書けない。募集要項は「DX推進経験者」で止まります。
書けていないことは、選考でも確かめられません。過去にどういう判断をして、なぜそちらを選んだのか。聞くことはできます。ただ、返ってきた答えが妥当かどうかは、同じ判断ができる人にしか分かりません。その人が何を引き受けられるのかは、入社してから分かることになります。
では、入社したあとに何を任せられるのか。やることが決まっている作業なら、任せられます。輪郭が決まっているので、「これをやってください」で足ります。
決まっていないのは、何をやるかを決める仕事のほうです。こちらは一言では任せられません。どこまでを引き受けてもらうのか、何を良しとするのか、外れたときに誰が引き取るのか。これが決まっていないと、任せようがありません。そして、これを決めること自体が判断です。
それでも、判断が要る場面は来ます。この見積もりを承認するか。この方式を選ぶか。引き受ける人が決まっていないので、出てきた案をそのまま通すことになります。決めたというより、通したことになるので、なぜそれを選んだのかは社内に残りません。
上図のとおり、輪になっています。要件を書くのも、選考で見極めるのも、任せる範囲を決めるのも、技術の判断ができる人の仕事です。その人がいないことが、輪の始まりです。いまの社内だけで手をつけても、同じところに戻ります。
物差しは、すでに公のものがある
何が要るのかを書くとき、ゼロから言葉を作る必要はありません。
経済産業省とIPAが2026年4月に公開したデジタルスキル標準 ver.2.0は、DXを推進する人材の役割を6類型・17ロールで整理しています。類型は、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、データマネジメント、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティです。
標準は、大きな会社のためのものではありません。対象は「事業規模やDXの推進度合にかかわらず、データやデジタル技術を活用して競争力を向上しようとする組織・企業」とされ、「企業がこれら全てを最初から揃えることは必須でなく、事業規模やDXの推進度合に応じて一部の役割から揃えていくことが想定される」とも書かれています。
ただし、標準自身が釘を刺しています。「スキル標準から戦略を描こうとすることや、スキルを闇雲に身につければDXが進むというものではないことには留意が必要である」。
順番があります。先に決めるのは、標準ではなく自社の事業のほうです。標準は、決まったものに名前をつけるときに使います。
採用の前に、自社で決められること
まず、直近1年で決まっている事業の予定を並べます。新しい商品やサービスを出す。人を増やす。いま使っているソフトの契約が切れる。長く使っている仕組みを入れ替える。すでに決まっているものだけで構いません。
次に、その予定を進めるうえで、誰かが引き受けないと止まる判断を書き出します。この見積もりを飲むかどうか。この仕組みを自社で持つか、借りるか。障害が起きたとき、どこまでを自社で切り分けるか。
書き出した判断に、標準の名前を当てていきます。「この仕組みを自社で持つか、借りるか」に近いのはソフトウェアエンジニア類型、社外とやりとりする情報をどこまで守るかならサイバーセキュリティ類型です。名前がつけば、募集要項にも、研修を探すときにも使えます。事業の予定から引いているので、技術の判断ができる人がいなくても、ここまでは社内で書けます。
一方で、急がなくてよいこともあります。6類型を全部埋めようとする必要はありません。一部の役割から揃えていけばよい、と標準にも書かれています。評価制度を先に作る必要もありません。評価する対象が決まっていない段階で基準だけ作ると、運用されないまま残ります。
難しいのは、「その判断に何が要るか」を書くところです。ここが書けないまま募集をかけると、来た人に何を任せるかは、また入社後に考えることになります。