この記事で分かること
- 委託元に課されている禁止事項の数
- 相手の了解について、公正取引委員会が書いていること
- 禁止事項11項目のうち、相手に責任がないことを条件にしているものの数
開発を委託していると、途中で仕様が変わることはあるでしょう。検収が先に延びることもあります。
委託先と話がついているなら、それで済んでいるように見えます。しかし公正取引委員会は、済まないと書いています。
この記事で扱う範囲
2026年に施行された中小受託取引適正化法(取適法)の話です。旧下請法が名前と中身を変えたものです。委託元を「委託事業者」、受けた側を「中小受託事業者」と呼びます(公正取引委員会、取適法の概要、第2条第1項〜第9項)。
自社が委託事業者かどうかは、取引の内容と、資本金規模または従業員基準の両方で決まります(同、取適法の概要、2 委託事業者,中小受託事業者の定義)。区分は、上の取適法の概要のページに表で出ています。自社の資本金と委託の内容を、その表と突き合わせてください。
禁止事項は11項目
委託元に課されている禁止事項が一覧になっています(同、委託事業者の禁止行為)。第5条第1項に7号、第2項に4号で、合わせて11項目です。
- 受領拒否 ── 注文した物品等の受領を拒むこと
- 製造委託等代金の支払遅延 ── 受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと
- 製造委託等代金の減額 ── あらかじめ定めた製造委託等代金を減額すること
- 返品 ── 受け取った物を返品すること
- 買いたたき ── 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い製造委託等代金を不当に定めること
- 購入・利用強制 ── 委託事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること
- 報復措置 ── 中小受託事業者が委託事業者の不公正な行為を公正取引委員会、中小企業庁又は事業所管省庁に知らせたことを理由としてその中小受託事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること
- 有償支給原材料等の対価の早期決済 ── 有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る製造委託等代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること
- 不当な経済上の利益の提供要請 ── 中小受託事業者から金銭、労務の提供等をさせること
- 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し ── 費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること
- 協議に応じない一方的な代金決定 ── 中小受託事業者から、価格協議の求めがあった場合に、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりすること
右側は原典の一覧に書かれている概要です(同、委託事業者の禁止行為の表)。
相手の了解は、理由にならない
一覧の前に、こう書かれています(同、委託事業者の禁止行為)。
「委託事業者には次の11項目の禁止事項が課せられています。たとえ中小受託事業者の了解を得ていても、また、委託事業者に違法性の意識がなくても、これらの規定に触れるときには、取適法に違反することになるので十分注意が必要です。」
了解を得ていても違反になる、と書いてあります。知らなかった場合も同じです。
委託先が「大丈夫です」と言ったことは、記録として残ります。ただし、それが違反にならない理由にはなりません。
6件は、相手に責任がないことが条件
禁止事項11項目の説明を1件ずつ読むと、条件の付き方が三つに分かれます(同、委託事業者の禁止行為の1〜11の説明文を当社が分類)。分け方は語の有無です。「責任がない」「責に帰すべき理由がない」「正当な理由がないのに」があるものを一つ目、それが無く「不当に」があるものを二つ目、どちらも無いものを三つ目にしました。
相手に責任がないこと、または正当な理由がないことを条件にしているのが6件です。受領拒否、減額、返品、購入・利用強制、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な給付内容の変更及び不当なやり直しです(同、1・3・4・6・8・10の説明文)。
「不当に」で判断されるのが2件、条件の記述がないのが3件です。支払遅延と報復措置と協議に応じない一方的な代金決定には、相手の責任という条件が付いていません(同、2・7・11の説明文)。
この6件が意味するのは、責任がどちらにあるかを決めておかないと、違反かどうかも決まらないということです。
開発の委託で違反になりやすい三つ
禁止事項11項目のうち、システム開発の委託で違反になりやすいのは三つだと読めます。
- 受領拒否。納品されたものを検収せずに置いておく形です。原典は「中小受託事業者に責任がないのに受領を拒むと取適法違反となります」と書いています(同、1 受領拒否の禁止)。
- 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し。仕様を変えたぶんの費用を持たずに直させる形です。原典は「費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること」を挙げています(同、委託事業者の禁止行為の表)。
- 購入・利用強制。開発に使う道具や環境を、こちらの指定で買わせる形です。原典は「給付の内容を維持するためなどの正当な理由がないのに」を条件にしています(同、6 購入・利用強制の禁止)。
どれも、悪意があって起きるものとして書かれていません。要件が固まらないまま進めていると、変更もやり直しも検収の保留も、同時に起こり得ます。
明日からできること
見るのは、いま動いている案件です。
納品されたのに、検収していないものがあるか。そして直させたぶんの費用を、どちらが持っているか。
この二つは、契約書ではなく進行中の記録に出ます。検収の日付が空いているもの、追加で頼んだのに見積もりが出ていないもの。探すのは、その二つです。
出てきたら、金額の話の前に決めることがあります。責任がどちらにあるかです。6件はそこを条件にしているので、決めないまま金額だけ話すと、違反かどうかも分からないまま進みます。
そして相手に確認を取っても、それは免れる理由になりません。原典が「了解を得ていても」と書いているのは、そこです。