この記事で分かること

  • 北朝鮮IT労働者に関する注意喚起を出したのは、どこか
  • 雇用または業務を発注する側が確かめられる特徴として、何が挙がっているか
  • 契約して対価を払うと、何が起きるおそれがあるか

リモートで開発を任せる相手を、オンラインのプラットフォームで探すことがあるでしょう。経歴も受け答えも悪くない、と見えるかもしれません。

その相手が名乗っているとおりの人かどうかは、経歴からは分かりません。

五つの省庁と各国が、同じ日に注意喚起を出している

2026年7月31日、警察庁、国家サイバー統括室、外務省、財務省、経済産業省が、米国及び韓国を始めとする同盟国・同志国の関係機関と共に、北朝鮮IT労働者に関する注意喚起を公表しました(警察庁ウェブサイト)。

同じ主題での発出は、これが三度目です。2024年3月26日、2025年8月27日に続きます(警察庁ウェブサイト)。2025年8月には、日本、米国、韓国が「北朝鮮IT労働者に関する共同声明」も出しています(同注意喚起)。

発出しているのは日本だけではありません。原典は、多国間制裁監視チームが2025年10月に、北朝鮮によるサイバー及びIT労働者の活動を通じた国連制裁の違反及び回避に関する第2回報告書を公表したと書いています(同注意喚起)。米国、日本、韓国、英国、豪州、カナダは、この労働者が民間企業、政府、市民個人にもたらすリスクに関するアドバイザリーを発出してきているとされています(同注意喚起)。

原典は、読み手ごとに項目を分けています。プラットフォームを運営する企業向けには九つ、雇用または業務を発注する方向けには六つです(同注意喚起)。

自社がプラットフォームを運営していないなら、確かめられるのは発注する側の六つです。

オンラインの受発注に入るために、他人の身分を借りている

原典は、手口をこう説明しています。「北朝鮮IT労働者は、他国の国民になりすまし、民間企業が運営する雇用や業務の受発注のためのオンライン・プラットフォームを通じ、業務や収入を得ています」(同注意喚起)。

身分の作り方も書かれています。「代表的な手口には、身分証明書の偽造や第三者へのなりすましが含まれます」(同注意喚起)。第三国に在住する代理人から提供された身分証明書の画像でアカウントを登録し、実際の業務は北朝鮮IT労働者自身が行う形です(同注意喚起)。

代理人の役割は、登録だけではありません。原典は「オンライン・アカウントの作成や、採用面接への参加、更には対面での接触を通じて偽りの信頼感を醸成し、業務契約を獲得するために、第三者の代理人を利用するケースがますます増えています」と書いています(同注意喚起)。

会って話した相手と、作業をする人が別のことがあります。

原典は、所在地の隠し方も書いています。北朝鮮、中国、ロシア、東南アジア、アフリカ諸国に在住しながら、代理人、VPN、リモートデスクトップソフトウェアなどを用いて働いている場合があるとされています(同注意喚起)。

原典は、その仕組みに名前を付けています。海外の第三者の代理人が「ラップトップ・ファーム」を運営し、企業から支給されたノートパソコンを受け取る。そこへ遠隔でアクセスすることで、実際の所在地を隠す形です(同注意喚起)。会社が送った機材が、送った先とは違う場所から使われます。

受ける仕事の幅も書かれています。ウェブページ、モバイルアプリケーション、ソフトウェア、ブロックチェーンアプリケーションの制作などで、企業や個人から業務契約を直接得ている場合もあるとされています(同注意喚起)。

発注する側が確かめられる特徴は、六つ挙がっている

原典は「雇用又は業務を発注する方向け」として、六つの特徴を挙げています(同注意喚起)。複数が当てはまる場合、北朝鮮IT労働者が不正に仕事を得ようとしている可能性があるとされています(同注意喚起)。

雇用または業務を発注する側が確かめられる、六つの特徴 北朝鮮IT労働者に関する各国・企業等に対する注意喚起(2026年7月31日)の「雇用又は業務を発注する方向け」の6項目。出身地とされている国の言語に堪能でない。ビデオ会議中に不整合がみられる。テレビ会議形式の打合せへの参加を拒否する。一般的な相場より安価な報酬で業務を募集している。複数人でアカウントを運用している兆候がみられる。暗号資産での支払いを要求する。 雇用または業務を発注する側が確かめられる、六つの特徴 出身地とされている国の言語に堪能でない ビデオ会議中に不整合がみられる テレビ会議形式の打合せへの参加を拒否する 一般的な相場より安価な報酬で業務を募集している 複数人でアカウントを運用している兆候がみられる 暗号資産での支払いを要求する

言語の項目には、断りが付いています。「北朝鮮IT労働者は、翻訳サービスや大規模言語モデルを用いて、第二言語においても説得的なプロフィールを作成し、コミュニケーションをとる場合もある」(同注意喚起)。

ビデオ会議の項目は二つに分かれます。参加したうえで「写真付き身分証との不一致や、改ざん又は人工生成されたようにみえる映像フィードを含め、ビデオ会議中の不整合がみられる」場合と、「テレビ会議形式の打合せへの参加を拒否する」場合です(同注意喚起)。

報酬の項目も具体的です。「一般的な相場より安価な報酬で業務を募集している」(同注意喚起)。安いことが、選ぶ理由ではなく、確かめる理由になります。

支払いの受け取り方にも特徴があります。原典は「銀行口座への直接振込での支払いを避けようとする場合が多く、送金サービスや暗号資産での支払いを求めることがあります」と書いています(同注意喚起)。報酬の振込先として第三者の口座を雇用主に提出し、その第三者に指定の海外口座への送金を依頼して、口座を使う対価に報酬の一部を手数料として払う形も書かれています(同注意喚起)。

契約して対価を払うと、法的責任を問われるおそれがある

原典は、契約した会社に起きることを書いています。「北朝鮮IT労働者と契約を交わし、サービス提供の対価を支払う行為は、日本、米国及び韓国等を含む多くの国の国内法に違反し、法的責任を問われる又は罰金を課されるおそれもあります」(同注意喚起)。

根拠として、国連安全保障理事会決議第2397号が挙げられています。限定的な例外を除き、全ての国連加盟国は、その管轄権内で収入を得ている全ての北朝鮮国民を送還しなければならないとされています(同注意喚起)。

支払った報酬は、働いた個人のところで止まりません。原典によると、この労働者は「北朝鮮における親元の機関に給与を送金する意図をもって契約を探し求めています」(同注意喚起)。その資金が向かう先として、原典は「不法な核兵器や弾道ミサイル計画」を挙げています(同注意喚起)。

北朝鮮に向かう資金は、国際的な枠組みでも監視の対象です。金融活動作業部会は、北朝鮮を行動要請の対象となる高リスクの国・地域として位置付けています(同注意喚起)。同部会は、関連する国連安保理決議と整合した強力な標的型金融制裁を実施する必要性を繰り返し強調しているとされています(同注意喚起)。

被害は支払いだけではありません。原典は「これらの労働者は、企業に対して内部脅威をもたらし、データ流出並びに暗号資産及び機微情報の窃取に関与しています」と書いています(同注意喚起)。

身分を隠すために、AIを含む手法が使われている

原典は、手口が変わってきていることを書いています。「北朝鮮IT労働者は、身分を隠蔽し、世界的に活動を拡大させるため、AIの統合を含む一層高度な手法を活用しています」(同注意喚起)。

六つの特徴のうち、言語とビデオ会議の二つは、この影響を受けます。北朝鮮IT労働者は、翻訳サービスや大規模言語モデルでプロフィールを作ります(同注意喚起)。映像にも、人工生成されたものが混じります(同注意喚起)。

そのぶん、残る四つの重みが増します。テレビ会議への参加を拒むか、相場より安いか、時間帯で相手が変わるか、暗号資産での支払いを求めるか。この四つは、作り込みではなく相手の都合から出てくるものです。

見抜こうとするより、確かめる手順を決めておくほうが続くと考えています。一人ずつ見破る作業は、担当者の目に頼ることになります。

明日からできること

決めるのは、リモートで働く相手を迎えるときに、どの順で何を確かめるかです。

面接と打合せを、ビデオ会議で行うことにします。原典が挙げているのは、参加を拒むかどうかです(同注意喚起)。拒む相手を選ばない、と決めておきます。

報酬の受取口座の名義を、契約する相手の名前と突き合わせます。第三者の口座を提出する形が原典に書かれています(同注意喚起)。名義が違うときは、理由を聞きます。

相場より安いことを、選ぶ理由にしません。安い理由を聞いて、答えが返ってこないときは、そこで止めます。

やり取りの相手が時間帯で変わっていないかも、記録に残します。原典は、複数人でアカウントを運用している兆候として挙げています(同注意喚起)。一度の面接では見えず、何度かのやり取りで出てきます。

六つを全部やろうとしなくても構いません。ビデオ会議と口座名義の二つは、いまの発注の流れに足せます。