この記事で分かること
- 「日本企業の86.4%が生成AIを利用している」という数字が、どの範囲を指しているか
- 効果が出た会社と、そうでない会社を分けていたもの
- 自社で最初に確認すること
「他社はAIを進めている。うちは何もできていない」というご相談をいただきます。その焦りの出どころは、報道で見た導入率の数字です。
86.4%が指している範囲
総務省が2026年7月24日に公表した令和8年版 情報通信白書によると、何らかの業務で生成AIを利用していると答えた日本企業は86.4%でした。米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%です。前年度の55.2%から大きく上がり、白書は他の3か国との差も縮まったと書いています(図表Ⅰ-2-1-6)。
ただし、この数字が指す範囲は限られています。調査の対象は、従業員10名以上で、かつ2025年までにデジタル化の取り組みを始めている企業の、管理職以上の方です。日本からの有効回答は515社でした(付注 p.254)。そして「利用している」の選択肢には、従業員が個人作業の効率化で活用しているという段階が含まれています。
つまり86.4%は、全社で導入した企業の割合ではありません。社内の誰かが、自分の作業のために使っている状態も入っています。自社を振り返って思い当たることがあるなら、この86.4%の中に入っています。
白書が「低調」と書いているのは、どこか
同じ白書は、他の3か国と比べると日本のAI活用は「依然低調である状況もうかがえた」とも書いています(p.28)。
生成AIによる業務変革への組織的な取り組みを聞いた設問では、「組織的な取り組みはない」と答えた日本企業が27.0%でした。米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%と比べて、際立って高い数字です。日本の中で見ると、大企業は18.1%、中小企業は45.6%でした(図表Ⅰ-2-1-3)。
入れたかどうかでも差はあります。ただ、どう使っているかのほうが、開きはずっと大きくなっています。
効果は出ている。出ている場所が偏っている
IPAが2026年7月に公表したDX動向2026では、AIを導入した、または試験利用している企業に効果を聞いています。「期待以上」と「期待どおり」を合わせて31.8%、「一定の効果はあった」が50.6%でした(図表3-13)。何かしらの効果が出た企業は8割を超えます。
その効果の中身が、判断の材料になります。効果が出たと答えた企業に、具体的に何が起きたかを聞いた設問(複数回答)では、「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%で突出していました。一方で「売上や利益が向上した」は3.9%、「顧客満足度が向上した」は4.5%です(図表3-14)。
効率化は、実際に起きています。ただし、そこから売上が動くところまでは、まだつながっていません。経営として「AIで売上を伸ばす」を最初の目標に置くと、実際に出ている成果を評価できなくなります。
止まっている理由は、技術でも予算でもない
中小企業庁の2026年版 中小企業白書に、省力化投資には取り組んでいるものの、AIは使っていない企業に、その理由を聞いた設問があります(複数回答)。1位は「活用する業務がイメージできていない」で63.4%でした。「活用を推進する人材が不足している」が40.0%、「必要な予算を確保できない」は13.8%です(第2-2-92図)。
止まっているのは、技術の難しさでもお金でもありませんでした。手前にあるのは、どの業務に使うかが決まっていないことです。
同じ白書に、効果の差を示した図もあります。省力化投資でITツールを導入した企業のうち、社内の部門間で連携できていると答えた企業では、「想定した効果が得られなかった」は7.6%でした。連携できていないと答えた企業では34.8%です(第2-2-95図)。白書はこれを、部門間で適切に連携することが重要だと示唆される、と書いています。因果を証明したものではありませんが、これまで見てきた範囲でも、この傾向に違和感はありません。
どこで解けるかを、順に見る
では、どの業務に使うかをどう決めるか。立てるべき問いは「AIを使うか」ではなく、「その業務はどこで解けるのか」です。
一つ目。手順を見直すだけで済まないか。同じ内容を別の場所にもう一度入力していた、承認が3段階あった、使われていない資料を作り続けていた。業務改善の根幹は、ここにあります。手順そのものを直せるのは一つ目だけで、下の二つは、いまある手順をそのまま速くする手段です。合っていない手順を自動化すれば、無駄がそのまま量産されます。
二つ目。ルールに落とせるなら、固定の自動化で足りないか。毎回同じ処理をしているなら、AIを使う理由はありません。それでも「AIでやりたい」という話がいちばん集まるのは、ここです。同じ入力には同じ結果が返り、失敗したときは失敗したと分かります。この点では、AIは固定の自動化にかないません。
三つ目。ここまでで解けなければ、AIの出番です。判断の幅が広く、ルールに落とせない作業です。ここはほかの手段では代えられません。上図のとおり、使うたびに費用がかかり、意図どおりに動き続けているかを見る仕組みも要ります。モデルが変われば、同じ入力でも出力が変わることがあるためです。
AIを前提に始まった検討が、手順の見直しや固定の自動化だけで終わることも少なくありません。それは後退ではなく、手前で解けたということです。
自社で確認するなら、まず「いま社内で誰が、どの作業に使っているか」からです。先ほどの86.4%を踏まえれば、すでに誰かが使っている可能性があります。その使い方が分かれば、どの業務に効くかの見当がつきます。
基盤づくりは、後からで間に合う
社内データを学習させる仕組みや、全社的なAI基盤の整備は、急ぎではありません。情報通信白書では、日本で社内データベースを整えていると答えた企業は24.5%でした。米国57.2%、ドイツ54.4%、中国73.0%と開いています(図表Ⅰ-2-1-5)。ただ、どの業務に使うかが決まっていない段階で基盤から作ると、使われないまま残ります。
順番としては、業務の切り分けが先です。