この記事で分かること
- 管理者が知らないまま措置が入るのは、いつからか
- 無害化措置として原典が例に挙げているのは、何か
- 措置を実施したことが、誰に通知されるか
自社のサーバーが、外への攻撃に使われていたと知らされたとします。攻撃を受けた先からの連絡か、通信量の異常か、どちらかで気づくでしょう。その機器をネットワークから外して、何が動いていたかを調べることになります。
10月1日から、そのサーバーを止める判断が、自社の外にも生まれます。
サイバー対処能力強化法と整備法は、令和7年5月に成立している
そこを説明しているのが、令和8年版の警察白書です。特集のテーマが「深刻化するサイバー空間の脅威と警察の新たなる展開」で、第2節が能動的サイバー防御を扱っています(警察庁、令和8年版 警察白書 特集)。
二つの法律は、令和7年5月の第217回国会で成立しました(同白書、第2節)。
二つの法律の柱は三つです。「官民連携の強化」「通信情報の利用」「攻撃者のサーバ等へのアクセス・無害化措置」(同白書、第2節)。
一つ目は報告と情報共有です。原典は、強化法に「基幹インフラ事業者がサイバー攻撃を受けた場合の政府への報告や、被害の防止のための情報共有及び対策に関する協議会の設置等」の規定が設けられたと書いています(同白書、第2節)。
二つ目は通信情報の利用です。ここには制約が置かれています。「憲法が保障する通信の秘密を不当に侵害することのないよう、サイバー攻撃に関係があると認めるに足りる機械的情報を自動的に選別することとされた」(同白書、第2節)。
このうち三つ目について、原典が施行日を注に書いています。「アクセス・無害化措置に関する規定については、令和8年10月1日に施行される」(同白書、第2節の注)。
新しい規定が警察に認めたのは、攻撃に使われているサーバーへの措置
三つ目の柱を担うのは警察です。整備法によって警察官職務執行法(警職法)の一部が改正され、新しい規定が設けられました(同白書、第2節)。図には条番号として「警職法第6条の2」とあります(同白書、図表特-15)。
措置を取れる場面は、条文の要件で決まっています。「サイバーセキュリティを害することその他情報技術を用いた不正な行為に用いられる加害関係電気通信等を認めた場合であって、そのまま放置すれば人の生命、身体又は財産に対する重大な危害が発生するおそれがあるため緊急の必要があるとき」(同白書、第2節)。
なぜこの措置が要るのかも、原典が書いています。「重大なサイバー攻撃においては、攻撃者が、攻撃元を隠蔽するため、ボットネットを用いてサイバー攻撃を行うのが通例である」(同白書、第2節)。
そのボットネットの中身が、注に定義されています。「攻撃者の命令に基づき動作する不正プログラム(ボット)に感染したコンピュータ及びこれらのコンピュータに攻撃者の命令を送信する命令サーバから成るネットワーク」(同白書、第2節の注)。
「感染したコンピュータ」が、ボットネットの構成要素として挙がっています。
対象について、原典が挙げているのは「攻撃サーバ等」です。図には「サイバー攻撃に関係するコンピュータ」として「C2サーバ」と「IoT機器等」が置かれています(同白書、図表特-15)。一般の企業のサーバーという書き方はしていません。
ただし、原典は管理者への関わり方も書いています。「コンピュータの管理者等にアクセス・無害化措置をとることを命ずる場合もある」(同白書、図表特-15)。措置の相手として、管理者が想定されています。
原典が無害化措置の例に挙げているのは、消去とシャットダウンと設定変更
何をされるのかも、原典に書かれています。図に挙がっている無害化措置の例は三つです(同白書、図表特-15)。
「不正プログラムの消去」「コンピュータのシャットダウン」「攻撃者の再ログイン防止のための設定変更」(同白書、図表特-15)。
本文にも、実施の中身が書かれています。「攻撃サーバ等に対し、ネットワークを介してアクセスした後、不正プログラムの消去、攻撃者の利用しているアカウントの削除等の通常必要と認められる措置を実施することとなる」(同白書、第2節)。
措置を取る理由は、放置したときの危害です。止まることで自社に生じる損失を、どう扱うかは原典に書かれていません。
実施の前に通す手続きは、指名と協議と承認の三つ
手続きの形は、法律をつくる前の議論から来ています。原典によると、政府は令和6年6月から約6か月にわたり、経済界・アカデミア・法曹界・メディア等の有識者による会議を開きました(同白書、第2節)。令和6年11月の提言では、アクセス・無害化措置について「警察官職務執行法を参考に危害防止のための措置を即時的に実施できる法制度とすべき」ことが挙げられています(同白書、第2節)。
誰でも実施できるわけではありません。原典は、警察庁長官が「アクセス・無害化措置に必要な知識及び能力を有する警察官」を指名し、その者に限って実施すると書いています(同白書、第2節)。指名される警察官の役職名は、サイバー危害防止措置執行官です(同白書、第2節)。
国外にある場合は、もう一つ通ります。「攻撃サーバ等が国内に設置されていると認める相当な理由がない場合、アクセス・無害化措置が国際法上許容される範囲内で実施されることを確保する観点から、事前に外務大臣と協議することとされている」(同白書、第2節)。図には、国外にある場合は「実施主体は警察庁のサイバー危害防止措置執行官に限定」とあります(同白書、図表特-15)。
そして独立機関の承認です。「原則として、事前に、独立機関として設置されたサイバー通信情報監理委員会の承認を得て実施することとされている」(同白書、第2節)。
急ぐ場面では、承認が後ろに回ります。「現に攻撃サーバ等からサイバー攻撃を受けているなど、サイバー通信情報監理委員会の承認を得るいとまがないと認める特段の事由がある場合は、事前に…承認を得ずにアクセス・無害化措置を実施することが可能となっている」(同白書、第2節)。その場合も「当該措置の実施後速やかに…通知を行い、確認を受ける」とあります(同白書、第2節)。
措置を取ったあとは、サーバーの管理者に通知される
ここが、自社に関わる部分です。原典はこう書いています。
「アクセス・無害化措置は、ネットワークを介して遠隔地の攻撃サーバ等に対して実施することとなるため、攻撃サーバ等の管理者が認知しないまま、アクセス・無害化措置を実施することが可能となる」(同白書、第2節)。
だから通知が置かれています。「攻撃サーバ等の管理者の所在が不明であるなどの一部の場合を除き、遅滞なく、アクセス・無害化措置を実施したことを攻撃サーバ等の管理者に通知することとされている」(同白書、第2節)。
通知の目的も書かれています。実施した措置が「執行官の正当な職務又は命令によるものであることを相手方が確認できるようにするため」です(同白書、第2節)。
管理者が誰かについて、原典に限定はありません。通知が届く先として書かれているのは「攻撃サーバ等の管理者」だけです。
明日からできること
決めるのは、自社の機器の一覧を誰が作るかです。
外に向いている機器を書き出します。公開しているサーバー、VPNの装置、ネットワークカメラ、複合機、事務所のルーター。原典が図に挙げているのは「C2サーバ」と「IoT機器等」です(同白書、図表特-15)。IoT機器は、置いたことを忘れやすいものです。
一覧に入れるのは三つです。何が動いているか、誰が管理者か、連絡先はどこか。通知がどの連絡先に届くかは、原典に書かれていません。外から連絡が来たときに、社内でどの機器の話かを突き合わせる先が要ります。同じ種類の機器が他に何台あるかも、その一覧で分かります。1台で見つかった設定を、残りで確かめる順番になります。
次に、外への通信を見る間隔を決めます。内側の通信だけを見ていると、攻撃に使われている状態は正常に見えます。気づく道は、外へ出ていく通信の量と宛先の変化です。
施行は令和8年10月1日です(同白書、第2節の注)。それまでに一覧が1枚あれば、通知が来ても、どの機器の話かが分かります。
運用の指針も出ています。令和7年12月に国家安全保障会議が「アクセス・無害化措置の運用に関する指針」を決定しています(同白書、第4項)。